世界を渡った先

□第一話
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飛ばされてから約1年、鍛錬に明け暮れていたある日、居間から見える庭に突如大きな岩のようなものが降ってきた。
それと同時に低い男の「ぐはぁあっ!!」という叫び声も聞こえる。
死んだんじゃないかと不安になったけどその後すぐに何故じゃとつぶやく声が聞こえた。

あまりにも衝撃的な出来事に少しの間ポカーンと穴の空いた庭を見つめたが緊急事態だと頭の警報が鳴り響く。
全く予想打にしてない敵襲だった。
危ないと分かりつつも、声の正体を確かめるべく私は護身用の竹刀を持って岩のような男が落ちて空いた穴を覗いて見た。

『あらら、まさか穴の中に熊さんがいらっしゃるとは……生きてますかー?』

うっすらと見える穴の下の男に声をかけると、体が痛すぎて動けないのか少し首だけをこちらに向け男は眩しそうに私の方を見上げた。
まぁ、ちょうどお昼すぎだから見上げれば直射日光で目がチカチカしてるんだろうな。

『…とりあえず生きててよかった、治療させてもらえますか?』

「……頼む」

少しの心配を胸に抱きつつもよっこいせと横にしゃがみ庭にめり込む体を引き剥がした。


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やっとの思いで持ち上げた男はなんと私の頭がみぞおちにくるほど大きかった。
私がそんな重いものをこの両腕でよく持ち上げたな、とそこに一番驚いている。

『はぁ、つかれた…明日の鍛錬に響いたらどうしよう』

「……まさか小生を抱き起こして運ぶとはな。
よくそんな細腕で持ち上げられたもんだ」

心底驚いたと言いたげな声色でぐったりと部屋で寝そべる私を布団から覗き見る大男さん。
横をむいてるのに髪が横に流れず目元が見えないとはどういう仕掛けだ。

『ふふふ、私も自分で驚いていました。
まさかこんなに大きな人が持ち上がるなんて…ますます人間味がなくなってきましたねぇ』

「ますます?」

『ここ数日で、私の腕力がメキメキ上がっていましてね。
最近大木を張り手で倒せるようになりました』

「大木を!?おまえさんがか!?」

ハハハと乾いた笑いを零す私を有り得ないと言いたげに聞き返してくる。
まぁこんなちんちくりんがそんなことできるとはまず思えないでしょうから、無理もないけど。

『ふぅ、落ち着いた。
治療も終わりましたし私は昼食の続きを取りますけど…食べて行かれますか?
味の保証は出来ませんけど』

「え?いや、そこまでしてもらうのはなぁ」

『あ、勿論毒が気になるなら私が毒見しますので…。
それに無理にとは言いません、気軽に休憩していただければ宜しいかと』

ニコリと笑って体を起こすと大男さんは少し考えてからまだ体が痛むのかゆっくりとした動作で上体を起こした。

「刑部のせいで朝っぱらから雑用させられて、足をすべらせたら大砲に詰まってそのまま発射されて朝餉を食えてないし、お前さんの好意に甘えさせてもらうかね」

『…なんというか、お疲れ様ですね。
すぐに用意しますのでお待ちください』

あんまりにもげっそりしながら肩を落とす彼にかなり同情した。
どんだけこの人不運なんだろうか、足を滑らせてなぜそんなところに詰まるのか全くわからない。
早めに元気になってもらおうと急ぎ足で彼の分の昼食を盛りに台所へ向かった。
きっとよく食べるだろうから大盛りにしておこうかな。
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