夢心地
□Repeat after me
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「えー……クライアントに死ぬされるは困るますから現場には出ないが良いですね。ペイ無しは困るますね。」
不慣れなこの話し方はシェンホアかと思いチラリと見るとチゥが必死でクライアントと話している。
レヴィは食事を摂りに街に出ただけだったのに、みょうちくりんなモンに出くわしたなぁとタバコを噛む。
確かあいつをですだよに投げた時は英語は一切話せなかったが……
そして鉄火場に出ると行って聞かないクライアントに極め付け
「それは私、骨折り損なるね!よそいけ、あほちん、よ!」
思わず吹き出した。あいつ、まんまミニ・ですだよじゃねぇか。
恐らく相手を罵る言葉で発音と意味が分かるのはそれくらいしかないんだろ。
声に気付いたのかチゥがテコテコと歩いてくる。
「よぉ、ボケ娘。久しぶりなのはいいけど随分な話し方だな」
「えっ!?何か変か!?ちゃんとシェンホアねぇさんに教わるてますよ。」
「…たぶん、それがダメなんじゃねぇか?チゥにはワカンねぇかもしれないが、シェンホアの話し方はちっと変だぜ。同じ話し方になっちまってる。」
「えー…。気づくませんですた…。お勉強、する直しね…」
レヴィは柄にもなくしょんぼりとするチゥが少し気の毒に思えあの道化魔術師とゴス女は英語としちゃ間違いないぜ。とだけ教えてやって自分が空腹だった事を思い出し屋台へ向かってあるきだした。
チゥがぺこりとお辞儀するのが横目に見えて手だけ振った。
「ただいま戻るましたー」
玄関で声を上げるとロットンが出てきてくれた。
「お帰り。」
ううん、本当に私と彼らの英語はそんなに違うのかな
「先、レヴィと会うましたよ。私の話す方とシェンホアの話す方は可笑しい、言われるました。本当か?」
そう尋ねるとロットンは少し考えた後困ったように頭に手をやる。
「確かになかなか、独特だ。不慣れなのが表に出てしまってる。」
「んなー!……そうですたか……。でもレヴィは、ロットンとソーヤーが英語上手言うましたね。あ、それは当たりまいか。」
「…まぁ、教えてやろう」
「っありがとう!」
ぱぁと笑顔を輝かすチゥに思わずロットンも微笑みそうになったがクールでなければ。とグッと堪えた。
彼が英語を教える事についてはシェンホアも、
私、英語得意ないね。しょんもない。それがいいよ。
と了承したし、ソーヤーもリスニングなど発音に関してはロットンの方が聞きやすいだろうそれを勧めた。
だが、相手を罵る言葉や汚いスラングは教えるなと条件を付けての事。
「よし!私、頑張るますよ!」
それからチゥは暇があれば勉強をしたし、ロットンも彼女が勉強を始めればゲームの手を止め見てやり上達していった。
が、
「見て、今宵の月の麗しき事。」
(見てー!今日、月綺麗だねぇ!って言ってるつもり)
「我が使命の同胞が…」
(私が仕事で組んだ人がね…って言いたい)
「貰い受けよう」
(ちょうだーい って言おうとしてる)
「おい…道化師、ボケ娘に何仕込んだんだ。」
「…そのつもりはない。」
妙な言葉遣いになってしまったチゥを指差し凄む。
シェンホアもほとほと困ってしまっている。
「ロットンは普通に教えたつもりね…。ただ、例文まで作らせたが間違いよ……」
「かわ…い、ソウだ、わ…」
状況が読み込めないでキョトンとしているチゥに暫くお前は喋るなとだけ固く言っておく。
「もう、ゴスが教えてやれ……道化師は発音だけだ。間違っても例文に手を出すな。ロアナプラの道化師枠はもうお前でいっぱいいっぱいだぜ。」
「ソ、れが……良さそウだ、わ…」
ソーヤーはこんな事になってしまったチゥが可哀想で仕方がなかったらしく、すぐに了承した。
それからは、ソーヤーが指示した単語や文をロットンが読み、チゥが繰り返し発音したりと順調に進みあっという間に普通に話せるようになった。
ただ、やっぱりたまにシェンホア訛りがでるし、ソーヤーの 〜だわ 〜よ 口調が6割だ。魔術師語は流石になくなった。
正直かなりレヴィに感謝している。ただ一つ未だにレヴィが文句を言うのが、罵る言葉や汚いスラングが分からない事。
シェンホアやソーヤーは あのアバズレみたいになったら良くない と教えたがらないし
ロットンも 女性の使う言葉は美しい方が良い と言って教えない。
ロアナプラじゃ日常茶飯事なスラングもあまり理解できていない様子のチゥに、やっぱりお前は平和ボケのボケ娘だ、と文句を言うのだった。