カウンター×カウンター

□水曜と木曜のゴング
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「……会長さんらにしか、話してなかったんやけど
ウチ、人の世話するの始めてとちゃうんよ」

「なんとなく
最初から気付いてました。
一番最初に鷹村さんに、階級聞いたでしょ?
詳しいから、ボクシングの事知ってるんだろうなぁとは思ってました」

名無しさん(名前)は席を立ち、冷蔵庫からスポーツドリンクを出した。

「達也くんは勘がええし、よう見える人やから
そんな気はしてたわ。
比較的、何でも器用にこなす方やろ?」

コップに注がれたドリンクを渡す。

「まぁそうですね」

「言い方キツイけど、その中で
極めたもん、何かある?」

「え?……」

「これやったら誰にも負けへんっていうの
ある?」

「……厳しい質問ですね。
でも俺、ボクシングだけは本気です」

コップを握る木村。

「意地悪言うてるんちゃうで」

優しく笑窪を作る。

「ウチと、よう似てるねん。達也くん」

「え?」

「ウチも器用貧乏や」

と笑った。

「ウチ、4人兄弟の末子でな
大雑把のO型。
ほんで、何にでも興味示す好奇心旺盛。
でも、飽き性。
中の上くらいまでで満足してしもて
それ以上は、まぁええわって
なってしまう、ほんま最悪やねん」

キッチンへ行き
換気扇を回し、窓も開け
タバコを取り出す。

「タバコ吸ってたんですか?」

「そやで」

「今言うたやん
好奇心旺盛って」

「中途半端な自分がイヤで仕方なかったけど
栄養士の資格とって間もない時
一度だけ、ジムにおってん。
……一生懸命練習して
辛い時も楽しい時もひたすら体作って
そういう時間に一瞬でも関われるのが
すごく嬉しくて
面白かった
充実ってこういうのなんやって思った
それに、人の為やったら、途中で止めるわけにもいかへん」

「でも、止めてしまってたんですね……
どうしてですか?」

「さぁ。なんででしょう」

と微笑む。

「いや、いいです。
知らなくても。今、名無しさん(名前)さんがここにいてくれるだけで
俺には十分です」

「過去にはこだわらへんっていうのは
ええ男の条件の一つや」

笑ってそういうと
タバコを消して
うがいをした。

「まぁタバコはな
兄弟のうち、兄貴が一人やねん
あと全部女。
兄貴みてたら、弟欲しいやろうなぁって思って
それっぽい事してみただけや。
ちなみに単車の免許もあるで」

とウインクした。

(鷹村さんにボコられて良かったぜ……
こんなハッピータイムが来るなんて)

「俺も昔は
ツッパッて親困らせてましたよ」

「ボクシングする人て
大体、むかしヤンチャやな」

二人で笑った。

「たまに例外もおるけど」

「一歩とか?」

「あの子は
……ええ子や
ええ子過ぎるわ。
まっすぐで一生懸命で
努力は必ず報われるって信じてる。
……うらやましいわ。
あんな風になりたかった」

窓の外を見る名無しさん(名前)。

木村は憂いの表情の中に寂しさが見えるのが気になった。

「何かあったんですか?」

「何もないよ
大丈夫。
…ウチも昔はスポーツとかしてたなぁって」

「例の器用貧乏ですか?」

「そうそう。」
と言って笑い

「皆の夢中な姿とか
一生懸命な姿とか
……うちには凄い栄養やし
見とって、誰もが頂点に立ってって
ほんまに思う。
これだけは譲れへんっていうモンを
皆持ってるんやなぁって
羨ましい。
だから……
鷹村くんは、悔しいんやろうし
イライラするんやろうな。
…なんか
達也くんには、こういう話してしまいたくなるねんなぁ」

木村は何のスポーツををしてたのかと聞こうとしたが
ドアの向こうから危険な声と音がした。
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