カウンター×カウンター
□はじまりのゴング
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プロローグ
「鷹村さん、減量今回もキツそうだぜ……」
トミ子と歩きながら、青木は言った
「鷹村さんって、いつもどれくらい落とすの?」
「普段の体重が大体90キロだ。ミドルの72キロまで、約20キロだな」
「20キロ!?それを短期間で落とすなんて無茶よ!」
看護師のトミ子は思わず声が大きくなった
「そんな事しちゃ、体が……」
「あぁ……そうだな」と青木は視線を落とし、返事をして、続ける
「けどな、俺らボクサーっていうのは、そうやって無茶やって命削って闘って……
その闘いの中でよ、中でしかよ……なんていうか……」
惚れた女の前で恰好つけようとするも、なかなか言葉が続かない
「誰か減量指導の人はいるの?」
「そんな奴、いねーよ。
かなりの大きさのジムなら知らねーけど、大体トレーナーが面倒みるからな。
あと自分の体を一番知っているのも自分自身だ。
それに鷹村さんは、なんせあの通りのオレ様だからよ……」
遠い目をした青木にトミ子は苦笑いする
アパートまでもう少しのところで「あ」と言ってトミ子は立ち止まった
なんだ?と聞く青木にトミ子は答える
「私、知り合いに上手く指導できそうな人がいるわ、もちろん資格も持ってるちゃんとした人よ。一度一緒にジムのぞいてみようかしら…」
「いやー……
あのボスゴリラが人のいう事なんて聞きそうにもねーけど」
「一度会うだけ会ってみてよー。会長さんやトレーナーさんにもそれとなく話してみて。
いつもマサルがお世話になってるんだもん。私なりのお礼っていうか…」
「…お前…」
繋いだ手に思わず力が入った青木だった
「わかった。明日それとなしに会長と八木さん篠田さんに話してみる。どう転ぶかはわからねーけど、見学くらいさせてくれって頼んでみるよ」
「私も帰ったらさっそく連絡しなきゃ」
帰宅後、さっそくトミ子は連絡をした
「データが古いから、変わってるかもしれないけど…」
と、電話を掛けた
「もしもし、名無しさん(苗字)さんでいらっしゃますか?
あ!よかったぁ。わかりますか?トミ子ですぅ。ご無沙汰しております。今お時間大丈夫ですか?
実は……
………………」
と、青木との先ほどの会話を話す
電話の向こうで名無しさん(名前)は
「ところで、うちが実家帰ってるとかは、思わへんかったん?」
と、笑いながら話した
トミ子も
「なんか実家に帰られてるイメージがなかったので。」
と笑いながら答えた
「え……名無しさん(苗字)先生、もしかして、京都に帰られてます?」
「いや、こっちにおるよ。もう病院勤めはしてへんけど。週末は夜勤が入ってるさかい、週末以外やったらいけるえ」
「ほんとですか?私も平日のお休みが多いから…日にちの打ち合わせで、また電話してもいいですか?」
「ええよ。うちもシフト確認しとくし。ほなね」
「はい。また」
と電話を切った
青木は「先生だと!?」
と少し大きめの声でトミ子に聞いた
「先生っていっても栄養士の先生よ!。私が新人ナースの頃に病院にいらっしゃったのよ。でもドクターと意見が合わないことがあって……。ドクターの高圧的な態度や殿様態度をみて幻滅して、辞めちゃったの」
「若気の至りってやつで、後悔でもしてんじゃねーのか、そのヤローは」
と皮肉まじりの笑顔でいう青木に
ヤローって と笑いながらトミ子は
「後悔はしてないと思うなぁ。
名無しさん(苗字)先生のうちって言葉久しぶりに聞いたけど、あの頃京都弁っちょっとあこがれたの思い出しちゃうわぁ」
「へー。そうかよ。」とテレビのチャンネルをかえながら青木は聞いていた
……ん?うち?
………ん?!
「えぇ!?お…女か?」
そうだけど、とお茶を入れに立ち上がったトミ子を見上げながら
(京都弁しゃべる女って……獰猛な野獣への階段を上るような減量中の鷹村さんにはかなりヤバイ気が…)
と名無しさん(苗字)の身を案じるのであった