遙かなる時空の中で5

□ことば
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ふと目が覚めると、カーテンの僅かな隙間から、青白くキラキラとした月明かりが漏れているのが見えた。
人工の光を全て消した部屋に入るそれは、なんて神秘的なのだろう。

不思議な魅力のあるその光を手にしてみたく、ベッドに横になったまま手を伸ばしたけれど、ただ虚空を掴むだけだった。
なんとなく寂しい気持ちになって手を引っ込めようとしたが、私の後ろから伸びてきた手が私のそれに絡まり、宙に留まる。



「ゆきちゃん……」


甘く優しい声で名を呼ばれ、一瞬で寂しさが消える。
絡められた手と後ろから私を抱きすくめる体から彼の体温が伝わり、愛しい気持ちが溢れてきて……

堪らずに身をよじり彼の方へ体を向け、正面から抱き締めると、同じように返してくれた。


暫く抱き合った状態で彼の香りを楽しんでいたら、「キミが……月の使者に拐われてしまうかと思ったよ」と耳元で囁かれ、擽ったさに身が震える。


「私はどこにもいかないよ。桜智さんの傍に、ずっといる。だから……」





異世界で1度彼を失い、とても言葉では現せないような深い絶望を味わった。

桜智さんは毒を受けた私を救おうとしてくれた。
――それだけだったのに。
その強い想いが呪術の発動に繋がり、結果的に私ではなく彼が、命を落とすことになるなんて…。


傷を受けるより
傷が消えるほうがずっと痛い……


桜智さんの言葉の本当の意味を、彼を失ってから気が付くなんて私は本当に愚かだった。







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