獄卒
□大切
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草木も眠る丑三つ時───。
それは、人ならざるものたちが活発に活動する時間である。
人に害悪を成そうと動く彼らが動くこの時間、獄徒達が働く時間でもある。
「「おおぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
二人分の怒号が、闇夜をつんざく。と同時に、シャベルと日本刀が、巨大な影を裂いた。
たちまち霧散して消えていく影に目もくれず、二人はサッと他の場所に目を向ける。
……周囲にはわらわらと、黒い影や異形の虫が集まったものなど、様々な魑魅魍魎がひしめいていた。
「あ"ぁぁもういつになったら終わるのよ!!!30分も動き回ってまだこんだけ残ってるとか、なんでこの仕事私たちだけに押し付けられたワケ!!?もっと他にいたでしょう、望憑(もちづき)さんとか刺川(さがわ)とか禍西(かさい)さんとか胃々塚(いいづか)くんとか相魔(そうま)さんとか胴本(どうもと)とか大罵(おおば)ちゃんとか!!」
「お前上司まで使う気なのー!?」
イライラと絶叫する苦藤に、いつも通り明るい声色で平腹がそう話しかけた。
夜中に駆り出されたこの仕事は、土地の穢れに呼び寄せられて集まった怪異達を蹴散らすことが、主な目的である。
平腹にとっては、雑魚キャラを蹴散らす某無双ゲームのような感覚で取り掛かれる仕事であり、苦藤にとっては大嫌いな怪異なので、この仕事には最適の人材であった。
その代わり苦藤のストレスは多大なものであるが。
その証拠に、苦藤は未だに、痕野(こんの)とか右狂(うきょう)さんとか虚宮(こみや)とか!と獄卒や、仕事上力を借りることもある者たちの名前をあげて、文句を言いつづけている。
イライラと仕事を続ける苦藤を面白そうに笑う平腹は彼女自身に怒鳴られ、その様子を眺めていた田噛は、木の枝に寝そべりながら、ハァ、と溜息をついた。
ちなみに魑魅魍魎たちは平腹たちに気を取られ、歯止め役として駆り出された田噛には気付かない。
ぼぉっと眺めるだけで終われるかも知れない、なんと楽な仕事だろうか。
しかし、物事はそう簡単には運ばないものである。