獄卒
□母親
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「……そういえば苦藤。君、明日は斬島と現世の結界確認に行くんじゃなかったっけ?」
佐疫がそう問うと、苦藤はビシッと、あからさまに固まった。
その隙に木舌は、苦藤に奪われた日本酒の瓶をヒョイと取り上げようとして、手を引っ叩かれた。
「あ痛てっ!」
「そうだ、そうだよ佐疫!ありがと、もう寝る!これよろしくね!」
「はいはい」
にこやかに佐疫は瓶を受け取り、パパッと花札を片付けて「お休みなさーいっ!」と食堂から出て行く苦藤を見送った。
「結界確認?」
「あれ、俺もよく分かってないけど、木舌知らないの?」
「何も聞いてないな。ところでお酒「ダメ」……ですよね」
僅かに小さく縮こまった木舌を笑いながら、肋角は説明を求めてこちらを見る佐疫に答えて話し始める。
「我々は現世の人ならざる者や亡者から、生者を守る義務がある。その為の結界だが、結界の媒体はどうしても現世の物になる。それがいじられていたり、破損して結界が破れていないかを確認するのが、明日の斬島と苦藤が当たる任務だ」
人と違うそれは、人の手に負えないこともまちまちだ。中には獄卒にすら苦戦を強いる者もいる。
無害ならまだしも、害するのならば生者亡者問わず、獄卒たちの敵である。仕事を増やすという意味で。
そのようなモノへの対策法の一つとして、封印があるという訳だ。
「必然的に人やそうでないものとの出会いが増えるし、結界の張り方を幾つも見る事ができる。斬島にも苦藤にも良い機会だ」
「斬島ならともかく、苦藤が聞いたら嫌な顔をするでしょうね。現世の妖怪なんて見たくもない、とか」
酒を諦めてつまみをかじる木舌がそういうと、肋角もそうだな、と相槌を打ちながら、お猪口に入った酒を煽った。
苦藤は肋角に拾われ、獄卒となった。
しかし元は人間、輪廻転生を繰り返す筈だった亡者である。いくら肋角が彼女を気に入り苦藤が彼を慕おうと、いつか輪廻転生に戻るのだ。
たとえ、自分の村を滅ぼした存在への恨み辛みによって人ならざる者と化し、肋角の差し出した酒を飲み下してヨモツヘグイを遂げたとしても。
だからこそ彼女は、肋角によって勝手に着せられた『村一つを滅ぼした』という罪を、人員不足という名目の元、獄卒として働いて償っている。
肋角には後見人としての責任がある。苦藤の罪を償わせ、再び輪廻転生の輪に戻す義務がある。
今回の任務も、償いの一つとなるのだ。