パラレル短編

□フランボワーズソーダ/イエロー・パロット
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見る、聞く、食う、飲む───人の楽しみは実に事欠かぬものである。
うわばみと揶揄される彼女のそれは呑むことに傾き、生活の全てがそれを中心としている。そしてそれは、人の輪を広げるものでもあった。しかし、酒を呑めばいつだって幸せな顔をしていられる、というわけではない。
普段彼女は、簡素な和装を好んで纏う。動きやすさと着やすさから来るものだが、この日は黒いドレスが彼女を飾っている。砂漠の王国・アラバスタはナノハナ、とあるバーでの夜であった。
店のマスターも、カウンターに鎮座するうわばみも口を開かない。マスターは落ち着いた表情で己の職務に準じるが、うわばみはアンニュイな顔でグラスに接吻していた。

彼女の気を落としているのは、先程から続いている外の騒ぎだ。どうも命知らずで浅慮で蛮勇ばかり誇る蛙どもが、鰐の巣にずかずかと踏み入ったらしい。
今夜は久しぶりに、落ち着いてゆっくりと酒を楽しむことができるかと思っていたが、短絡的で向こう見ずな海賊どもが近くで騒いでいるおかげでそうもいかない。そこそこの客と程よい賑わいを見せていた店も、海賊どもを恐れて客が逃げてしまったおかげで、がらんどうと化している。戯れに逃げなくて良いのか、とマスターに問えば、しばらくすれば守り神が現れるよ、と返された。
しばらく黙って聞いていれば、喧騒は唐突に悲鳴へと変わり、そして歓声へと変わった。あぁ、巣を荒らされた鰐が飛んできた。そのうえ、どうやら彼は歓声を脱ぎ捨て切らぬまま、この店へとやってきたらしい。
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