パラレル短編
□恐竜さんと狼さん
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「太ったァ?」
「デカイ声でそういうのやめてくれませんかね」
傷つくわ。
部下のユーリは眉をひそめて、私に近付いた。触診のように、シャツの上からお腹が触られる。私と違って指先があったかくて羨ましいなこのやろう。
「んー、別に言うほど太ってなくない? このくらいなら誰だってあるよー」
「今までがりがりオア痩せ気味だったから気になるんだよ」
化粧とかおしゃれなんてほとんど気にしていないようなものだけど(これはこれでヤバイな)、デブになるのは流石にヤバイ。元から顔面偏差値が低いのに、贅肉なんてついたらデブスに進化してしまう。
「ダイエットといえば⋯⋯まぁ普通は食事制限とか、うんど」
「却下」
「今私が運動って言うの狙ってたでしょ、遮るタイミング良すぎたよ」
「だってこのクソ寒い中で運動とかふざけてるだろ! 積もってんだぞ⁉ 雪が‼」
私は前世、クソ寒いのにも関わらず雪が降らない土地に住んでいた。雪になるほどの水分がない場所だったから、雪が積もった光景なんてそうそう見ない。マリンフォードだってそうだ。雪が降るほど寒い日に動けとか殺す気か、という発想に至るのは致し方ないと思ってほしい。
ユーリは雪が普通に降る地域の出身だから、雪が積もったこの状況がどれだけすごいか、というのが分からないみたいだけど。
「睡眠時間とかも太りやすさに繋がるし、一食の中での食事の食べ方とかも関係するけど?」
「十二時には寝てるよ、最近。食べ方も⋯⋯多分偏らないで全部一緒に食べてる」
「んー。睡眠時間も十分だし、食事の仕方も大丈夫そうだし⋯⋯別にカロリーの高いものばっかり食べてるわけでもないしねぇ。やっぱり運動不足しかないんじゃない?」
だろうねぇ。私もそこが一番の要因だと思うよ。
痩せなきゃやばいなぁと思いながら、運動をしないダイエット法を尋ねようと口を開いた瞬間、後ろからコツン、と硬い足音がした。
「ヒマそうだな」
聞き慣れた声に振り返り、さっと立ち上がって敬礼する。
「お疲れ様です、ドレークさん」
「あぁ、ありがとう。食堂でいただいたんだが、食べるか?」
「わーいポテチいただきますー。ドレークさんも食べますよね?」
「デブの素」
「ユーリ」
味の素みたいな物言いで罵倒するんじゃありません。ドレークさん困惑しちゃうでしょ。