パラレル短編

□恐竜さんと狼さん
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私ことナナシは、非常に危機感を感じていた。季節は冬、雪の積もった翌日のことだった。

冬といえば、凍えの季節である。外は銀雪に覆われ、牢獄のように石畳でできた私の部屋はかなり冷え込む。自分の体温で温まったベッドから出たくない。
もともと私は寒さに弱く、この季節は起きることさえも億劫だ。オフトゥンの魔力はブラックホールのごとく、人間を惹きつけてやまない。
だが今日は非番ではなく、普通に出勤しなければならない。ご飯だって、この部屋には何もない。私自身は一色ぐらい抜いても構わないのだけど、部下達が心配してこの部屋に入ってきたらおおごとだ。ウ=ス異本という名の魔道書を、かわいい部下達に見せるのはいたたまれない。
着替え一つで奥歯ガタガタ言わせて嫌なのだから、外に出るなんて以ての外だ。関節という関節が曲げられないほど、寒さに固まっているのだから、屋内でだって運動したくない。そのくせ料理ばかりは美味しいので、無駄に食べては動かずぬくぬくとだらける日々が続いていた。
きっと嫌がらせで仕事が無く、干されているこの状況も相まっているのだろう。


「⋯⋯⋯⋯」


ヒーターにあたりながら、筋肉の伺えないペタンとした腹に手を当てる。
ぷに、と指の形に沿って脂肪が歪む。

言い訳はよそう。
とどのつまり、太ったのだ。

さすがの私もこの有様はヤバイと思う。今までなけなしの筋肉で皮の張った腹をしていたのに、なんだこれは。薄皮の下にクッション入ってんぞ。腹を見るために下を向いた顎にも触れてみれば、柔っこい肉がぷにぷにと触れた。死にてぇ。
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