パラレル短編
□高鬼
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昔、近所にとても優しいお兄さんがいた。
私の家は、いわゆる由緒正しい良家。父が経営する会社は未だ大きくなり続け、母の英才教育は多岐に渡る。
自分で言うのもなんなんだけど、私がいるのはお嬢様みたいな立場らしい。一人娘だからか、父も母も私に過剰なまでの期待を寄せた結果、私はこの立場が疎ましくなってしまった。
しかし一つだけ、小さい頃に両親の言いつけを無視していた事がある。
それが、近所に住むお兄さんに会いに行く事だ。
小さい頃、私はとても行動力に溢れる子だった。よく言えばやんちゃっ子、悪く言えばじゃじゃ馬娘という感じで。
そんな私は、仲良くしていたその子が、私の立場にそぐわない人間だと言い続けられても、こっそり抜け出しては遊びに行っていた。
安いアパートの一室に住むお兄さんは、坊主頭でガタイもよく目つきも鋭かった。だけど何故か、私はその人が大好きだった。
いつでも私の心配をして怒っていたけれど、遊びに行く度に嬉しそうな顔をしていた。それが私も嬉しくて、あの人のところに通ったんだっけ。
だけど、毎日のように遊びに行っていたら、自然と両親にはバレるわけで。
結局、お兄さんに会いに行く事は出来無くなった。突然行かなくなったから、あの人も何があったか知らないはずだ。
……今でも元気にしているだろうか。