パラレル短編
□色鬼
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あのさぁ、と頭を抑える。
「鍵渡したからって、酔っ払いの世話をするって宣言した覚えはないんだよ?」
「えー、そんら かたい こと、いわないでさぁー」
へらりと微笑むその頬は赤い。おまけに酒臭い。完全にできあがってる状態です、本当にありがとうございました。
ソファに座る私の膝にもたれかかる巨体を退けるのなんて、最初から選択肢の一つにすら入っていない。
大きな犬みたいに膝に懐く黒髪を撫でると、木舌はその手を取って、指を二本咥える。
じゅる、とすすられる指にどきっと反応を返すと、木舌は満足げな笑みを浮かべて、こちらを見上げた。
……虚しくなるのなんて、片手じゃ収まらない。
木舌とは、恋人関係とは言いがたい。
付き合って欲しいと言ったのは私の方だし、木舌には合鍵だって渡している。
でも、恋人とは言いがたい。
この人は私を、欲求処理くらいにしか思ってないみたいだから。
仕事が忙しい、といつもデートを断ってくるのだ。鍵を渡す前はメールや電話や会うことだって、1週間に1回あるかないか、くらいだ。近距離なだけに、遠距離恋愛より酷いおかげで、恋人らしいことなんてほとんど出来やしない。せいぜいこうした、色めいた事くらいだ。
不安にならないかと聞かれたら、不安しかない。この人は私の体目当てで、私と付き合っているのかと思ってる。現在進行形で。
それでも何の抵抗もせず木舌のやりたいようにやらせているのは、木舌が好きだから。まだ離れたくない、一緒にいたいって、バカみたいに思ってるから。
私も大概おかしい。
「ナナシ、好きらよぉ〜」
ありふれてつまらない言葉に、今日もまた騙される。