パラレル短編
□Stand up!!
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するり、頬から首を何かが滑った。
閉じていた瞼をこじ開けると、艶めく毛皮を持つ橙の目をした黒猫が、しなやかに長い尻尾で田噛の頬を撫でていた。
ジトリと見下ろす目は、主人である田噛によく似ている。
「……終わったか」
気怠げなかすれ声がそう紡ぐと、猫はなぁんと低く答えた。返事のような鳴き声を聞いた田噛は起き上がり、くぁっと一つあくびをする。
「おっ?田噛起きたー!」
ああ、うるさい奴が来た。
二対の橙色がじとりと睨み上げる。その先には、血塗れになった平腹と、同じく血塗れのがっしりとした狼が、似たような表情でこちらを見ていた。
「全くよー、田噛寝てんなよなー!獲物は俺と承和(ソガ)でみんな倒しちまったぞ!?」
ソガと呼ばれた狼は、平腹に同意するように一声鳴いた。
相も変わらずこのハイテンションで、この馬鹿どもは疲れないのだろうか。疲れないんだろうな。馬鹿だから。
だいぶ失礼な事を思いながら、田噛はゆっくりと立ち上がる。従順な黒猫の橘は主人に合わせて、重い腰をゆっくりと持ち上げる。
「……チッ」
舌打ちの音が響く。きょとんとしている平腹とソガを無視し、田噛はツルハシを構えた。
「タチバナ」
名を呼ばれた猫は、ひらりと身軽に跳ぶ。
そのままソガのぽかんとした顔を踏み越え、高く飛び上がる。
すると、黒猫は黒豹のように大きく変化し、鷲の翼と長い爪、そして太く鋭い爪を伸ばした。
荒々しくも幻想的なその爪は、平腹とソガに近付く悪鬼の残りを、閃光すら残るような素早さで切り裂く!
「!」
悪鬼に気付いてソガが低く唸るが、既にタチバナに倒されている。
平腹も残りがいた事にようやく気付いて目を見開き、タチバナが倒しきったのを見届けた。
「……わりー、田噛!あんがとなグブッ!?」
田噛を振り返ると同時にツルハシが脳天に突き刺さり、蛙が潰れたような呻きをあげて、平腹は倒れる。
「何すんだよ田噛……ッ」
「うるせェ面倒をかけてんじゃねェよ」
グサグサと突き刺さるツルハシから逃れようとソガを呼ぶが、巨体の狼も黒豹の前にひれ伏し、その柔らかな肉球に踏みつけられていた。