海賊
□酒呑んできた狼
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「どうやら主さまは本物のうつけもの(馬鹿者)のようでありんすな」
「開口一番に貶されるとは思わなかったわ」
そう素直な感想を述べると、ルリチョウは手にした刀に右手を置いた。抜くなよ? 抜くなよ!? 日本人の「やるな」は「やれ」に近いけどこの場合は本当に抜くなよ!?
海賊にしてはかなり温厚なルリチョウが怒っているのは、私が昨夜に軽率ともいえる行動をとったためである。
一緒に呑み明かして仮眠をとった後、ドフラミンゴは潰れた私を小脇に抱えてタイヨウの海賊団へ預け、少し遅く会議へと参戦したらしい。気が付いたら夕べ一緒に軽く呑んでたはずの魚人さんが覗き込んでいてびっくりした。
その後、二日酔いの頭痛が収まるのを待ち、ジンベエとルリチョウが戻るまでここにいた、というわけだ。休みの連絡を部署に入れたら二日酔いかと聞かれた。なんで分かったし。
「相手をどなたと思っておられんすか。七武海の中でも特に危険とされるお人でござんすぇ。全くもって軽率極まりありんせん」
「いやあの、これにはちょっと深い事情が」
「ちっとものを言わずにいなんし」
「ウィッス」
黙れって言われた。親父様にも言われた事ないのに。ホントはあるけど。
軽率な行動を叱られるのは慣れているが、温厚なルリチョウが怒っているのは正直いってかなり怖い。
いやまぁ普通に考えて危ないことしたと思うけど、言うこと聞かなかったらそれはそれで怖いことになりそうだし。実際妙な能力使われてガチでビビったし。
「まぁまぁ。相手が相手なんじゃ、断れんかったんじゃろうて。そうしつこく言うもんじゃないぞルリチョウ」
ぷんすこするルリチョウをやんわりとなだめたのは、船長のジンベエさんだった。
ちなみにジンベエさんとは、親父様の元にいたころ何度か会ったことがある。
おかげで私には魚人差別意識はまったく育たず、海兵になってから人間を差別する魚人に近づいて怪我しかけたことがある。そもそも魚人と人間の間に確執があることすら知らなかったからね。
「名無しは昔から危機管理能力が緩すぎるのでありんす。その結果が今こうして海兵になっているのでありんすから、いい加減少しはきちんとしていただかぬと⋯⋯」
「それにしても名無し、お前さん昔は酒が嫌いじゃったろう」
「ジンベエ!」
話を無理やり変えられてルリチョウが怒るが、ジンベエさんは無視して話し続けた。
「昨夜は宴じゃったから少しは呑んだのかと思っておったが、べろべろになって連れてこられたそうじゃのう」
「いっやぁ美味しさを知っちゃったら、ブランデーもウォッカもジンもワインも日本酒も焼酎も美味しいよねぇ」
オヤジさんに似てきたのう、ジンベエさんは穏やかに笑った。