海賊
□其は、人か狼か。
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肉に噛み付き、食いちぎり、悲鳴をあげるその喉にかぶりつく。熱い血飛沫が、口腔に広がる。
こんなことがしたいんじゃない。いやだ。もうやりたくない。もういやだ。
「───よくやった、任務は成功だ。後のことは任せて、君はゆっくり休んでいるといい」
何がよくやった、だ。くそったれ。人殺し。
「───何を言っているんだ。殺したのは君だろう。自分可愛さに、自分の意思で、飢えを満たしたいがために、欲望のまま彼らを貪り食ったのは君だ」
ちがう。やめろ。私じゃない。殺したのは。
「───死にたくないから殺したんだろ? 腹が減ってしょうがないから食ったんだろ? やりたいようにやっただろ?」
ちがう、わたしじゃない、わたしが、やめて、ころして、わたしが、わたしは、
「───人殺し」
ひとごろし。
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がたんっ!
「うぉあっ!?」
悪夢にうなされて飛び起きてみれば、私のものじゃない悲鳴が聞こえた気がした。
呼吸が落ち着かない。怯えた心臓がばくばくとうるさく鳴く。その音に急かされているかのように、私の心は恐怖した。
「いててて、急に起き上がるなバカモン! こっちはいい気持ちで寝ておったと⋯⋯」
落ち着け。あんなの夢だ。人狼の記憶は私にはない。あれは私が見た記憶じゃない。違う。落ち着け。あれは私がやったことじゃない。違う。私がやったんじゃない。
恐怖と罪悪感が、私を取り巻いた。人を殺した。人を食った。禁忌を犯した絶望が背筋を舐る。
私は小さく丸くなり、悲鳴を押し殺して震え、荒くなっていく呼吸を繰り返しながら泣くしかなかった。怖くて怖くてたまらない。私はなんてことをしてしまったのか。
す、と背中に温もりが触れる。
それに怯えて目を向けると、見慣れた人がひどくやさしい表情で、私を静かに見下ろしていた。
「⋯⋯が、ぷ、さん」
ガープさんは無言のまま、少し荒っぽく、私の背中を平手で叩いた。たまった物を吐き出せ、とばかりの行動だ。それでどうにかなれば、楽にすむのに。
私は泣きじゃくった。子供みたいにえぐえぐと泣きじゃくった。まるで3年前のあの日みたいに、父親を食い殺しゴーストシップでひとりぼっちになった時のように。
ガープさんは私が落ち着くまで、震える私の背中を撫で続けてくれた。近くに信頼できる人がいるというだけで、私の心はいくらか楽になった。