海賊
□狼・狐、猛特訓中!
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「お願いいたしんす!」
「⋯⋯いや、別にいいけどよい⋯⋯」
困ったマルコは眉をひそめて頭を掻いた。
儚げな雰囲気を持つルリチョウには珍しく、確固たる意志がこもった視線を向けてくる。
揺らがぬ決心を見せつけられたマルコは問いかけた。
「本気なんだな?」
端的な質問にルリチョウはこくんと頷く。
「遠慮は必要ありんせん。今はとにかく、強くなりとうありんす。どれだけ厳しいものでも、耐え抜いてみせんしょう」
そう言われてもなぁ、と困った顔をするマルコをじぃっと見つめると、根負けしたかのようにハァッと溜息をつかれた。
「そう言われても、毎日毎日、休みなく特訓してんじゃねぇかよい。俺はこれでも十分厳しくしてるつもりだぜ? 今のお前は、その歳にしてはかなり強ェだろい。これ以上は⋯⋯」
「足りんせん。わっちは家族を守れるほど強くなりたいのでござんす」
言い返されたマルコはぐっと口を引き結んだ。そういえばルリチョウは見かけによらず、かなり頑固だった。
「───⋯⋯わーった、やってやるよい。ただし、本当に手加減はしねぇ。覚悟しろよ?」
「⋯⋯あい。わっちは家族を、あの子を守れるほど強くなりんす。明日からよろしくお願いいたしんす」
名無しが失踪してから、ルリチョウはひたすら泣いていた。
奴隷生活から連れ出してくれた恩人であり、友人であり、大切な家族である名無しが失踪したことは、ルリチョウの心に強いショックを与えた。
悲しみに浸るルリチョウであったが、奴隷生活で鍛えられたのか、それとも元来の性質なのか、彼女はとても強靭な精神を持っていた。
居なくなったのならば見つければいい。
またどこかへ行ってしまうなら守ればいい。
その為には強くなくては。
強くなりたい。
幼い少女は、純粋な想いから力を望んだ。
それが今回、もともと厳しかったマルコの特訓を、さらに厳しくして欲しいと頼む結果となったのだ。
己の願いを叶えるために自身を昇華する。
ルリチョウは実に好ましく、強靭な精神を持つ少女であった。