海賊

□狼は正義の元に
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ガンッ!


「起きんか駄犬が」


うるせぇこのクソ狗。

なんだよ起き抜けにぎゃいぎゃいと。こっちはここ数日の精神的疲労のおかげでぐったりしてるのに。


ここは海軍本部の地下にある空き部屋、その一室に最低限のものを置いた、私専用の部屋だ。

安いベッドは硬くて寝心地が悪いし、石畳づくりだから部屋はとにかく寒い。
時計も置いてない上に日の光も入らないから、時間がどのくらいかもわからない。

それでも実父の船にいた頃よりはだいぶマシなんだけどね。あの頃は床の上に寝てたし。


「あーでも三年間柔らかいベッドに寝てたしなぁ、やっぱ体痛い」
「お前ごときに高い布団を使わんわ」
「あっそ」


至極どうでもよさそうに努めた返事をして、痛む左肩をほぐす。


「で、なに」


ひんやりと冷えた床に足を降ろして、入り口の辺りに立っているサカズキに目をやった。

そういえば私こいつに名乗ってなかったな、聞かれないから名乗らないけど。


「とりあえずはシャワーを浴びて着替えろ。夏島からここへ来るまで風呂に入っちょらんかったろう。臭くてかなわん」


吐き捨てるように言ったサカズキは、手に持っていたカゴを、投げるような乱暴さで床に置いた。


「ひっでぇ! 誰が年頃の女の子をそんな状況に置いたんだか」


くつくつと可笑しそうに笑ってみせると、ズカズカと無遠慮な靴音が近付いてきて、ごつい手が襟元を掴み上げた。


「立場をわきまえろとは、昨日も言われちょる話じゃったのぉ。捕虜であるという事を忘れるなよ、海賊が」


薄暗い牢獄紛いの部屋(というか牢獄だな)で、帽子のつばやフードの影が掛かって、更にサカズキの顔は分かりずらくなった。

酷く冷めたその目は恐怖を煽るのには十分で、殺されるという認識はすぐに現れた。


───⋯⋯落ち着け。

海軍の得になるような人間を一時の感情で殺すほど、こいつは激情的じゃないはずだ。


「それくらい分かってますよ。だからこそ家族から引き剥がされたと心が折れないように、こんな態度を続けるんだ」


要は、結局強がりなのだ。


正直、年の近い友達はルリチョウしかいなかった。

上陸した島で同い年くらいの子たちとは話したりしたものの、友達らしい友達は皆無に等しい。ルリチョウは頻繁に外に出ていたらしいけど。

そもそも島々にいる時間も短かったのに、引きこもりな私はモビーの部屋で寝ていたり本を読んだりして、人と話す機会すら作らなかった。コミュ障とか言うな。知ってるから。


とどのつまりこの海軍では、私はまごう事無きぼっちって事だ。


しかも海兵が大嫌いな海賊。素性が知れればリンチもありえるし、マシな対応でもいい顔はされない。
確実に寂しくて泣いちゃう。

これぞ人生ツムツム。


「とりあえず苦しいから離してくんないかな」


引っ張られた襟がこすれて、若干うなじが痛い。


サカズキは無表情に私を見据えていたが、やがて面倒臭そうに私の襟元を掴んだまま、ベッドの方へ私を突き飛ばした。

まったくバイオレンスでいただけないね。
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