海賊

□犬に出会った狼
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「⋯⋯あつ⋯⋯っ」
「このもやしっ子め、まだ港から出てもいないじゃないか」
「港から5分も離れてないとか⋯⋯そもそもこの島、港自体が広いんじゃん⋯⋯」
「ん? 言ってなかったかい?」
「言ってなかったよ⋯⋯‼」


体調の悪さから苛立ちの混じった声を上げる。


暑い。暑い。


黒髪が熱を持ち、汗ばんだうなじの熱を籠らせて更に暑い。
けもみみを覆い隠すバンダナは無事だろうか。汗で色が変わっていたらかなり恥ずかしい。

この島は大きく、かつ海に面した部分の凹凸が妙に大きい。そのおかげで島の奥の方まで港町が広がり、そこから抜けるのは容易ではないのだ。


なーにが港から離れてないだ、船から離れてたら十分遠出だよ!!!


確認もせずにホイホイ付いてきたのは私の落ち度だが、ミヤ姐さんは私がバテてるのを知っている。それを連れまわすだなんてどういう了見だ、と苛立たずにはいられなかった。


「もう少しだ。あとちょっとで休めるから頑張りな、名無し」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


口を開く元気すらない。

倦怠感に体を引きずりながら歩くと、それから本当に1、2分で店に着いた。

程よく冷えた店内は、涼むには十分な気温で、適当な席に向かうと、私は即座にへたり込んでしまった。


「涼しー⋯⋯」
「本当にもやしっ子だねぇ……それにしても、丁度いい室温じゃないか。木陰で涼んでるくらいには心地いいね」
「すみませーんお冷やくださいー」
「お前は人の話を聞きなさい」


ツッコむミヤ姐さんの横で、若い女性の店員さんがお冷やですー、と氷水の満たされたグラスを置いた。


「おかわり、置いておきましょうか?」
「あ、お願いします」


店員さんが気を利かせてくれたので、甘えることにした。


気付けば美食家なミヤ姐さんは、メニューを眺め、音符が浮きそうなくらい楽しげに料理を見ていた。水を喉に流し込んで人心地つき、私も姐さんと一緒にメニューを見始める


「冷製スープとかある⋯⋯」
「お前でも食べられるだろう? サッチによると、夏バテにはトマトとかカボチャとかが良いらしい。お前はカボチャは好きだったね」
「今甘いのは嫌だから、トマトスープにしとくわ。コショウ入ってるから、塩とかコンソメとかの味なんだろうし」


なんかサッチと話している間に、体調によってどんなものを食べたら良いかだんだん分かるようになってきた。

そういえばカボチャは体を温める効果があるらしいが、それを冷製スープで食べたら、結局温まるのか冷えるのかどっちなんだろう。
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