海賊
□狼は砂に何を見る
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サーブルス。
狼の耳を持つ名無しは聞き取ってしまった。
床に伏せさせたルリチョウの背を自らの身で覆い隠すと、無遠慮に叩きつけられる砂のざらりとした感触をうなじに感じた。
肌が引き攣るような感覚になる。砂に水分を啜られているように感じて、砂が眼球に渇きをもたらさぬようしっかりと目を閉じた。
服の袖で横殴りの砂を防ぎ、僅かに目を開ける。
周囲は砂で飴色に染め上がり、青い空も海も、戦う海賊達の姿も見えなかった。
しかし、数瞬間後にはその砂色の景色はざらりと晴れ、モビーで見るいつもの風景と、渇きに呻く家族の姿が現れた。
「⋯⋯⋯⋯名無し⋯⋯」
掠れた小さな声で名前を呼ばれて振り返る。
「⋯⋯サッチ⋯⋯!」
「無事か⋯⋯っ」
サッチはうずくまっていた。皮膚が乾燥して、変色しているようにも見える。
どうやら名無しとルリチョウは伏せていた為、ダイレクトに攻撃を受けることはなかったらしい。
しかし服や皮膚の様子からして、サッチは立っていたようだ。渇いているらしき面が多い。
「わ、私とルリチョウは無事っ⋯⋯!ってかサッチ生きてる⁉」
「勝手に殺すな⋯⋯」
わたわたと名無しがサッチに寄ると、サッチは荒い息で名無しの発言にツッコむ。
向こうでは全く砂嵐を受けなかったルリチョウがビスタに駆け寄り、その肩を支えながら周りを見渡していた。
攻撃が飛ばされたのが、敵の主要となる船がある方角からであるのは、少し考えれば分かることだった。
「砂の能力者⋯⋯となると、ロギアでありんしょうか」
「厄介な相手であることに変わりは無いな⋯⋯」
ビスタのセリフを聞いて、ルリチョウはぐっと顔をしかめた。
船長の能力までは新聞には載っていなかったし、どの写真にも能力らしきものは写っていなかった。そもそも能力者かどうかも分からない。
しかしルリチョウは、順当に考えてこの砂の攻撃は敵船長によるものと判断し、それと思しき人間をぐっと睨め付けた。
「⋯⋯あの方でありんすね」
彼女の視線の先には、黒髪にレイピアを携えた男が佇んでいた。