海賊

□狼は迷い子
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青黒く染まっていく世界の奥、かなり深い所に子供はいた。

泡を吐きながら、苦しげに弱々しくもがいている。


───クソ、何であんなに沈むのが早ェんだ!


心の中で悪態をつきながら、沈みゆく小さな肢体に向けて泳ぐ。

体が小さい子供なら、溺死するのも早い。急がなければ危険な状態になる。

必死にヒレを動かし、子供の元へ急ぐ。


ようやく追いついたその体を抱き寄せ、今度は水面を目指す。

小さな体は、もうピクリとも動いていない。

子供が沈むスピードが速すぎて、水面がかなり遠い。ぐったりと動かない子供には厳しいかもしれない。


「───マルコ!」
「生きてるか⁉」
「動いてねェ、息もしてねェんだ‼」
「くそッ、ナースんトコに連れてくよい、そいつもうちょい上げろぃ!」


ぐいっと持ち上げられた子供は、女だった。


確かに呼吸をしていない。身体も冷たく、人形のように力がない。

動く事を脳そのものが放棄してしまったようにぐったりとした少女を、マルコは目を見開きながらも足で受け取った。


少女の頭には、髪と同じ色をした獣の耳が、ぴょこんと一対生えているのだ。


少女に何があったかは知らない。

しかし、その耳や足の間から垂れる尻尾、ゴーストシップで何があったか、どうして生き残っているのかなど、意識が戻ったら聞くべきことは山ほどありそうだ。


「マルコ、ここに寝かせて!」
「よい!」
「お嬢ちゃん、分かるー? 分かったら何か反応して!」
「心肺停止、大量に海水を飲んでます!」


慌ただしくナース達が動き回る。その中心に居座る少女は未だ意識がない。

人工呼吸を施され、ナースが必死に呼びかけていた。


「お願い戻って、戻って⋯⋯!」
「お嬢ちゃん頑張って!」


相変わらず人形のまま動かない少女は、心臓マッサージによって揺れている。

そして暫くしてから、ナース達の必死の呼びかけに答えるように、少女の喉がカフっ、と鳴った。


「戻ったわ!」
「顔を横にして、水を吐かせなきゃ!」
「毛布とタオル持ってきて!」


僅かに緊張が緩み、何人かの男がその場に崩れ落ちた。

こうして少女は無事に蘇生し、白ひげ海賊団に保護された。
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