太陽に焦がれた人魚の話
□船上より
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目を開けると見覚えのない天井が見えて、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなった。
だんだんと意識がはっきりするにつれ、そういえばここは竜宮城じゃなかった、と徐々に思い出してきた。
起き上がってみると、外は日が昇らずまだ少し薄暗い。
9年に及ぶ使用人生活で身についた生活サイクルは、そう簡単に崩れそうにないな。
外に出て、とりあえず食堂に向かう。ちょうど今くらいは忙しい時間だろうし、手伝うくらいなら使用人の私にだってできる。
「お。早いじゃねぇか、エリシアちゃん」
「あら、サッチさん。おはようございます」
食堂に入ると、食料庫から食材を抱えて出てきたサッチさんと会った。
はよー、と軽い挨拶をしたサッチさんは、早朝だというのに頬が火照っている。
大変な大仕事をしていることが容易にわかった。
「私もお手伝いさせていただきます」
「え、いや、客人に手伝いはさせられねぇよ。それに右手もまだ痛むだろ」
「大丈夫ですよ、このくらい! これでも王宮勤めの使用人です。熱いものは触れないけど、食材の下処理とか、お皿の準備とかなら任せてください!」
サッチさんはちょっと渋ったけど、やっぱり忙しかったみたいだ。
調理場に案内され、ビニールの長い手袋を差し出された。
それをつけてりゃ包帯も濡れないだろ、と言うサッチさんにお礼を言って準備を整えると、私はバタバタと慌ただしくなった調理場の奥へと連れて行かれた。
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ぱた、とテーブルに突っ伏すと、体の奥から燃え上がるような暑さが、より強く感じられた。
朝っぱらからこんなに汗びっしょりになるとは思わなかった⋯⋯大人数を支えているだけあるよ、ホント。あんなに作業量が多いとは思わなかった。
ことん。突っ伏した頭の上から音がした。
顔を上げると冷えたレモンスカッシュが置かれ、その向こうにサッチさんがトレイを持って立っていた。
「お疲れ、エリシアちゃん。朝からありがとな」
「いえ、白ひげ様とこういう約束をしたんです」
「約束?」
「ナワバリの島々を見せていただく代わりに、働くって」
まだ聞かされていないみたい。サッチさんはへぇ、と一言もらして、私の分の朝食を差し出してくれた。
そのまま私の前に座り、自分の分の朝食を置いて食べ始める。