太陽に焦がれた人魚の話

□彼女と彼が出会うまで
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時は少し経ち、新世界。


この海には四人の王が君臨している。


その一人に数えられる、世界最強の男と呼ばれる大海賊・白ひげ。

彼は愛する息子たちと共に、珍しく穏やかな航海をのんびりと楽しんでいた。


しかし和やかな航海は、人魚が現れることにより、簡単に終わりを迎えた。退屈を好まない彼らには歓迎されるものだ。


「⋯⋯!」


息子達に勧められるがままワインの飲み比べをしていた白ひげは、突如として愛武器の薙刀を手に取り、前方を見つめて立ち上がった。


「オヤジ?」
「! ⋯⋯おい、なんか近付いてきてんぞ」


水中に巨大な影が浮かんでいる。白ひげの視線はそちらをじっと見据えていた。

よく見ると、巨大な影の手前にもう一つ小さな影がある。

大きな影は小さな影を狙っているらしく、俊敏に逃げる獲物を追ってわずかにヒレやぬらりとしたウロコを見せた。


そして、双方の影が、大きく弧を描いて空へ舞い上がる。


大きな影は、巨大な海獣であった。

蛇のような頭部からは、大きなヒレが生えていた。巨大な黄色い眼は獲物を喰らわんと、鋭く尖った視線を持っている。カッと開かれた口は、周囲を丸呑みするには十分なものだろう。


そしてもう一方の小さな影、哀れにも巨大な捕食者から逃げ惑うそれは、人魚のエリシアだった。


シャボンディ諸島を出てから手近な島を目指していた彼女は、不運にもこの海獣に遭遇してしまい、泳ぎでは生物最速とされる人魚の全力をかけて逃げていた。


かなり長く追いかけっこをしていたが、この海獣は存外しつこかった。

腹が減っているのか、人魚に味を占めているのか、元来そういう性格なのかはわからない。

とにかく海獣はしつこく彼女を追い回し、エリシアは海獣から必死に逃げ惑っている、という状況だ。


そして、人間である船長含め白ひげ海賊団にとっては、珍しい人魚の登場である。


「マルコ! あの人魚の小娘を回収してこい」
「了解だよい!」
「マルコが奴を回収したら、俺が追い払う」


人魚に興味を持った白ひげが、マルコにそう指示を下していた、その一方。


「グジャアアアアアアアアア!!」
「ああぁもうホンットうっざァァァい!!」


水中では、海獣が野太い雄叫びを、エリシアが悲鳴をあげていた。

そろそろ疲れが見えてきた為、なんとか撒きたいところだったが、そうそう上手くいくものでもない。


海獣を撹乱させるために、海の深いところから一気に泳ぎ上がり、飛び上がる。
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