太陽に焦がれた人魚の話
□新世界さえも抜けて
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一年前、俺たちはとある海を航海しているときに、雇い主の命令で国の外に出ていたエリシアを拾った。
こうして寝食を共にするのも一年になる。
今回上陸したのが、二人で観光していくつめの島か、もう俺は覚えてない。
「⋯⋯凄いねぇ、エース君。島っていうか、もうただの木じゃん」
隣に立つエリシアが、呆然と上を見上げて呟いた。
コイツが驚いたり、興味深そうにものを見ているのは、なんか好きだな。
「シャボンディもヤルキマンマングローブで出来た島だぜ?」
「集合体ならまだしもコレ一本じゃない。ストマックバロンか何かの亜種?」
「それ食肉植物な。そんな植物の近くで生活するやつなんかほとんどいないからな」
世の中頭のおかしい奴はいっぱいいるから、一応ほとんどって言っておく。案の定「ほとんどなんだ」ってツッコまれた。
そりゃもちろん、海水を吸って生きられる植物なんざほとんどありゃしねぇ。
ましてやこの大木は、モビーディック号を10個並べてもまだ届きそうにないほどの高さを誇る。100年ちょっとでこんな大木にならねぇ。
ってことで、エリシアはこの大木の種類にも興味を持ったらしい。
島(ってか大木の根っこ)に上陸してまず最初に、俺達は図書館へ向かった。
エリシアのリクエストに答えて人を探し、すぐにおっさんだかおばさんだか分かんねぇ人を見つけた。
「はいはい、なんの本をお探しだい?」
「この島の起こりが書いてある本を拝見したいのですが、ジャンルがよくわからなくて」
「おやぁ人魚なんて珍しい。それならこっちだよ、ついておいで」
のしのしと歩き出した司書に続き、エリシア、俺の順番で歩く。
エリシアは人魚で、足がない。いつも腰のあたりにシャボン玉をまとわせて、尾ひれで扇いで移動する。
俺がその尾ひれに視線を落とすと、いつもより少し大きく揺らしているように見えた。
これはコイツのクセだ。そんなに本が楽しみなのか。
それから少しして、司書がここだよ、と立ち止まった。