太陽に焦がれた人魚の話

□新世界さえも抜けて
1ページ/17ページ

誰かが泣いている。


必死に、必死に激情を抑えるような、押し殺した声で泣いている。

なんでそんなに泣いてんだ。

俺が泣かせてるのか?


俺が人間だから、泣いてんのか?


彼女の泣き顔はひどく悲しく、それでいてひどく、美しかった。


「すき、だいすき⋯⋯だいすき⋯⋯っ!」


ああ、やめてくれ。

お互い苦しいだけだ。


俺もお前のことが、こんなにも愛おしくてたまらないのに。


どれだけ想っても、お前とは絶対に触れ合えない。

愛しい想いが俺自身の胸を締めつけて、


「すき、すきなの⋯⋯愛してる⋯⋯っ!」


涙ながらに必死で訴えかけられたその言葉をきっかけに───俺はベッドから転げ落ちて現実に戻る。

痛む頭を押さえて起き上がると、ちょっとしたたんこぶが出来ていた。


あの夢、なんだったんだ。







起きて食堂に行けば、いつも通りの賑わい方だ。

調理場を覗けば彼女がいて、頬を火照らせながら忙しなく駆け回っている。


エリシアはカウンターに寄りかかる俺に気付いた。

一瞬調理台の下に消えたかと思うと、手に骨つき肉を乗せた皿を持ってこちらへ寄ってきた。


「おはよう、エース君」
「おう! おはよふ、ほえふへぇは(これうめぇな)」


いきなり骨つき肉を口に突っ込まれたが、遠慮なく食べる。苦笑しながらエリシアは答えた。


「サッチさんがこれでエース君を餌付けできるからやってみろって! エース君わんちゃん扱いじゃない」
「あん"はほ(なんだと)⁉ ほえはほやひほふふほへひんへんはほ(俺は親父の息子で人間だぞ)! んぐっ、サッチなんかフランスパンだろ!」
「お前らなんで会話が通じるんだい?」


「私に言われても」と言いたそうな苦笑をするエリシアに憤慨していると、後ろから呆れたような声が聞こえた。

肩越しに振り返ったが、振り返るまでもなく誰が声をかけてきているのか、とっくにわかってた。


「あらマルコさん。おはようございます」
「おう。エスパーでも使ってんのかい、エリシア」
「エース君はたんじゅ……分かりやすいですし」


そう言って、エリシアはにっこりと微笑んだ。


時々みんな、俺のこと動物か何かと間違えてんじゃねぇかな。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ