新・海賊夢

□出会い。
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世界三大勢力の一角、世に名を馳せる白ひげ海賊団の船モビー・ディック号。
現在白いクジラの中では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

「あの子、まだ目ェ覚ましてねぇんだって?」

朝の賑やかな食堂。カウンターにお盆とともにつくと、開口一番にリーゼントヘアの男が話しかけてくる。声をかけられた男は、まぁなと短く答えた。

「溺れていた時間が少し長すぎた。しかも患者は子供。ナース達の話じゃ、ガリガリに痩せていて体力も無さそうだとよい。目を覚ましたとしても、何の障害も残らないとは言い切れねぇ」
「そうかぁ。まぁしょうがねぇな。海に飛び込んだのはあの子の意思なんだからよ」

"患者"の様子を聞いたリーゼントの男サッチは、話の重さとは裏腹にフランクな口調である。
話題の発端は、前日の昼に海を漂う幽霊船を白ひげ海賊団が発見したことから始まる。海流に流されるままの幽霊船を乗組員達が眺めていると、どこからともなく痩せた子供が現れ、ふらふらと海に飛び込んだことがきっかけだった。

「船の中は荒れてたんだってな」
「ひっでぇもんよ! あちこち惨殺死体が転がってるし、どこもかしこも血塗れで鼻がひん曲がるかと思った! 昨夜もいつも通りメシ作ったのを褒めて欲しいくらいだよ!」
「ハイハイ。つまりは何だ、あのガキは船の中の唯一の生き残りってわけだ」
「そうなるな。だがどーも俺にゃあアレが普通の同業者同士のドンパチとかそういうもんに見えねえんだよなぁ」

サッチが首をひねる。おちゃらけた態度とは裏腹に彼の観察眼が存外高いことは、マルコも良く知り得たことだった。

「なんで」
「んー勘って言っちまえばそれだけなんだが……死体の状態がどうにもきな臭ぇ」
「もったいぶらなくていいよい。デケェ声で言わなけりゃな」

朝っぱらからする話にしては生々しすぎる。サッチは身を屈め、こそこそと内緒話の姿勢をとった。

「おそらくの死因はどれも裂傷による失血死だ。それも恐らく、爪や歯によるものが多い」
「……つまり何かに食われたってことかよい?」
「それだけならまだいいんだが、傷口を見てみたら引っかき傷はまだしも歯型の形はまるで人間のものだったんだぜ!? もしも猿とかの獣じゃなけりゃ、アレを引き起こした犯人はどうやってやったにしろまともじゃねぇだろ」

人間と思しき歯型に惨殺死体。一人残され自殺を図った子供。今はまだ眠っているが、精神的にも肉体的にもどんな障害が残っていることやら。
子供を預ける施設も考えねぇとな、と食事を食べ進めるマルコのもとに、突如1番隊の隊員が飛び込んでくる。

「た、隊長! 大変だァ!」
「うるせぇな、飯ぐらいゆっくり食わせろい!」

めんどくさいと言わんばかりに振り返ると、隊員は酷く青ざめていた。その頬には小さな引っ掻き傷のようなものが伺える。それはまるで、子供の爪のような。

「あのガキ、目ぇ覚ましたんだ! 暴れてナースたちじゃ手がつけらんねぇ、しかも多分能力者だ、なんかたこ足みてぇなもん出してるし!」

手にしていたスプーンを放り出す。マルコの纏う空気は、寝起きの気怠げなものからぴりりと張り詰めたものに変わっていた。
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