太陽に焦がれた人魚の話
□地上を行く人魚
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からんからん。
「⋯⋯いらっしゃい」
あらやだ、無愛想。
人間撲滅思想のアーロンだってもっと愛想良かったわ。あの人、人間嫌いだけど普通にフレンドリーなところがあったし。
ここは一般市民が利用するような酒場ではないのかもしれない。妙な視線を感じる。
酒場と言っても軽食くらいは取れるお店みたいで、カウンターにはメニューがかけられている。
それを手にとって、外国の食事がどんなものか見てみた。
野菜たっぷりパスタ、トマトとチーズのカリカリサンドイッチ、チェリーパイ⋯⋯結構種類がたくさんある。
人間の世界とはいえ、食生活もあんまり変わらないんだなぁ。
なんとなく感慨深い気持ちになりながら、パスタとリンゴジュースを注文する。
他の料理を見てみても、魚人達が食べているものとは大して変わらないみたいだ。
せいぜい違うところは、材料が水中にいない豚や牛や鳥、ってところだけだろう。
やっぱり私たちは、人間から進化した種族らしい。
でも不思議だね。「人間から」進化したのに、なんで魚の特徴を持ったんだろう。
魚といえば、生物の進化では一番最初に当たるはずなのにね。進化したんだか退行したんだか。
程なくして料理が目の前に出された。むりむり湯気立つまで熱いものとか私食べらんない。
「⋯⋯観光かい? お嬢さん」
店員のおじさんが、カウンターの奥から声をかけてきた。ごくっと一口ジュースを飲み下し、カウンターに置く。
「魚人島の出身にとって、シャボンディ諸島は憧れの対象だからね。一度くらいは観光したい場所なのよ」
人魚や魚人にとっては、差別とかで危険な場所みたいだけどね。
確かに、私は自衛できるようには見られないんだろう。筋肉も目立たないし、なよっとしてるように見られがちだ。
けど、自分の身を守るくらいなら十分だって言われてるよ。ジンベエ親分のお墨付きよ。
するとおじさんは、私の頭の先からカウンターに隠れる前の腹までを見回し、顎の下に手を当てた。
「⋯⋯あんたには安全な場所じゃねぇな。さっさとこの島を出て行った方が、あんたの身のためだ」
親切な警鐘どうも。