海賊

□狼は砂に何を見る
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「ところでサッチ、あれなんだったの?」
「ん? あれ?」
「ほら、なんか急にバタバタ倒れてったじゃん」


サッチのおかげで怪我一つ負わなかった名無しは相変わらず彼の元を離れず、白ひげが起こした怪現象について問いかけた。


「あれがいつぞやにビスタの兄さまが仰っていた、3つ目の覇気ではありんせんか?」


名無しに寄り添うルリチョウが、愛らしく小首を傾げて口を開いた。


「(名無しと違ってルリチョウはいちいち可愛いなぁ⋯⋯)ああ。あれがオヤジの持つ、覇王色の覇気だ」
「(私と違ってルリチョウはホントに可愛いなぁ⋯⋯)覇王色って、どんな覇気なの? 教えられないからって、どんなものかも聞かされてないんだけど⋯⋯」
「あい、わっちもにおざんす」


サッチは顎ひげを撫でさすり、なんつーのかなぁ、と話し始めた。


「簡単に言うと、力の差を相手に叩き込む覇気っつったらいいかもな」


サッチのその説明を聞いて、名無しは怪訝そうに顔をしかめ、ルリチョウはこてりと首を捻った。

サッパリ分からないらしい二人に、サッチは苦笑してきちんと説明する事にした。


「覇王色ってのはな、相手に自分がどれだけ強いか教え込んで、相手を怖がらせる覇気なんだ。戦うまでもなく弱い相手なら、気絶するくらいには圧倒する事ができる」
「へー」


さすが親父様、と名無しは感嘆の声を上げた。


「それにしても、あのクロコダイルとかいう奴、よりによってオヤジに喧嘩売るとはな」
「あははっ、それいろんな人が言ってた」


5番隊のジーモが言っていたばかりだ。


「あの人多分、また名前を上げて大物になるんじゃないかな。ウチとぶつかる日がくると思うよ」
「そうかぁ⋯⋯?あ、そういえばお前⋯⋯」


サッチの視線が名無しに落ちた。
訝しげな顔つきになったサッチを前に、名無しもルリチョウもきょとんとした顔をしている。


「クロコダイルに対して自信と過信がなんだのとか、またアイツがウチとぶつかる事があるとか、なんか妙に大人びたこと言うのな」
「⋯⋯そうかなぁ?」
「言われてみれば、確かにすごい事を言っていたような気がいたしんす」


ルリチョウも不思議そうに名無しを見た。

名無しは生きてきた年数がアレだが、まさかそんな事を言えるわけでもなく、少し困った顔をした。


「んー⋯⋯まぁ、大人っぽいこと言ってみました?」
「なんでそこで疑問符入るんだよ」


サッチは可笑しそうに微笑んだ。

そんなサッチの後ろから、ナースのメイリアさんが心配そうな顔で駆け寄ってくるのが見えた。


ああ、これは叱られるな。そう思った名無しの心は暖かく、妹として大切にされて幸せだなぁと思うのだった。
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