海賊

□狼は砂に何を見る
6ページ/7ページ

結局、彼らは白ひげの命令によって元の船に放置される事になった。


一部の者が怒って海賊旗を燃やしたようだが、全部の旗をやる事はない、とマルコに抑えられたらしい。

あの旗は海賊団の象徴。全てではないとはいえ、それが1、2枚燃やされたなら十分牽制になるだろう。


クロコダイルの性格からして、それで白ひげへの戦意を失くすわけがないと思うが。


他の者が敵を船に放り投げているのを余所に、名無しは動けないクロコダイルのすぐ横に立った。

未だ意識が浮ついた状態だが、まだ目を開けている。


「しぶといなぁ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯か⋯⋯」


朦朧とした目つきのまま、唇が微かに震えた。
それに気付いた名無しは、しゃがみ込んでクロコダイルの言葉に耳を傾ける。


「⋯⋯れは⋯⋯⋯⋯かぃ⋯⋯くおう⋯⋯に⋯⋯っ」
「⋯⋯⋯⋯」


『俺は海賊王に』。名無しにはそう聞こえた。

若い頃の彼の夢は、海賊王になる事だったか。
細い目を更に細め、夢半ばで敗北を知った男に向かって、名無しは言い放った。


「だから言ったでしょ。“過信で終わらないように”って」


焦点の合わず濁った目では、名無しが誰か分かっているかも怪しい。何を言ったかも分からなかっただろう。

しかし、名無しにはどうでもよかった。ただ言えれば、それでよかった。


「名無し、そいつで最後だ。向こうにほっぽり出すぞ」
「はーい、サッチ」


素直に返事をした名無しは、人獣化した状態で軽々とクロコダイルを持ち上げ、ポイと相手の船に放り投げた。

持ち上げた時にはクロコダイルの意識はなかった。どうせ向こうの甲板に体を打ち付けても、意識は戻らないだろう。


「あのお方、オヤジさんに救われんしたね。⋯⋯名無し?」
「⋯⋯多分あの人、またいつかどっかで会うことになると思うんだけどさ」


男を放り投げた船を眺めながらそう言いだす名無しは、困ったように顔をしかめて続けた。


「でもさっき、真っ正面から『お前親父様に勝てないよ』って言っちゃったから、絶対殺す気全開でくると思うのよね」
「⋯⋯ああ⋯⋯」


大きな夢掲げてて可愛かったのになぁ、と呟く名無し。そんな親友に対し、変わっている子だとは思ってたけど男に対して思うなら「カッコいい」だろうに、と少し呆れるルリチョウだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ