海賊
□狼は砂に何を見る
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二人の戦いは熾烈を極めたもの、とは言い難かった。
甲板とはいえ、船内で遠慮なく暴れてしまうと船が沈んでしまう。
既にスナスナの実の能力を手に入れているクロコダイルは宙を舞うことができる筈だが、未だ能力を使いこなせていない彼に、それができるだろうか。
そもそも使いこなせもしないのに、宙を舞えることを知っているかすら、分かったものじゃない。
白ひげはパラミシアだ。宙に浮くことなど出来ない。そして家族を海に落とすようなことも出来ない。
家族と船を守る為に、白ひげはクロコダイルの無遠慮な攻撃を抑えながら戦っていた。
基本的にぼぉっとして観察眼の低い名無しは気付かなかったが、白ひげの戦い方を見た事のないルリチョウは気付いた。
「君なんで親父様の戦い方見た事ないのに、親父様が遠慮してるって分かるのよ?」
相手を抑えながら戦っている。そう呟いたルリチョウに、名無しは不思議そうに問いかけた。
「オヤジさんは、大体の攻撃は能力をまとった拳や武器で、受け止めたり弾き返すのでありんす」
友人に目も向けずに、ルリチョウは戦闘の様子を観察しながら答えた。
「覚えられておられんすか、名無し? 半年ほど前、海軍の砲弾が甲板にいたオヤジさんに当たりそうになった時のこと⋯⋯」
「あぁ、あの時はその砲弾をスパッと切って、海軍の船の一隻に当てたんだっけ。結局、沈まなかったらしいけど」
そういう時は大概隊長達が対処していたのだが、その時砲弾は見事に白ひげに向かって飛んで行ったのだ。
悠々と酒を飲んでいた白ひげが顔色一つ変えず砲弾を両断した姿が最高にカッコよかった、という武勇伝だ。だがこの状況では、名無しにしてみれば、それがどうした、といったところだ。
「先ほどのバルハンなぞと言った攻撃のとき、能力をまとった武器で受け止めんした。普段のオヤジさんなら、あの距離にいる敵は受け止めた攻撃ごと、能力で弾き飛ばすのでありんしょう」
確かに、先ほどの三日月型砂丘の攻撃、白ひげは能力をまとった薙刀で相殺していたのだ。
白ひげの力量からして、攻撃を弾き返すどころかクロコダイルに衝撃を加えるなど、朝飯前の筈。
「というわけで、わっちにはオヤジさんが本気で戦っているようには見えんせんなぁ」
戦場にも関わらず、はんなりとした雰囲気を崩さない物言いをするルリチョウ。
ルリチョウの話を聞いた名無しは、白ひげの戦いを注意深く見るようになった。
すると、なるほど。確かに白ひげの動きは少し小さい。
というより、小さく収まるよう神経を使っている感じだ。
(私は戦うのにいっぱいいっぱいで、他に気を配るなんてこと絶対に出来ない⋯⋯)
実際に午前中、稽古の真っ最中に甲板をブチ抜いた名無しである。戦闘中に別のものに気を配るなどできるわけがない。
名無しは改めて、力を抑えながらもクロコダイルを圧倒する父の姿に、恐れ慄いた。