海賊

□狼は砂に何を見る
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すると、名無しはある方向に目を向けた。

気味悪そうに名無しを見ていたクロコダイルは、まだ幼いこの少女の眼差しが変わったのを見た。


静かな怒りを煮えたぎらせていたものから、何か柔和な表情に移り変わる。


クロコダイルも少女の視線を追ってその先を見ると、2m半のクロコダイルより更に巨大な体躯の、50代後半と思しき男が現れた。

金の長い巻き毛に三日月型のひげ。手配書で見た姿そのものだ。


「グララララ⋯⋯若ェのは命知らずなモンだなァ」


余裕の微笑を浮かべる大男白ひげは、真っ直ぐにクロコダイルを見据えてそう言い放った。


命知らず。白ひげの言葉の影には、「世界最強と謳われるこの白ひげに、勝てるわけもない喧嘩を売るとは」という意味も含まれている。頭のキレるクロコダイルはそれに容易に気付いた。

苛立たしげな視線を、白ひげに対して飛ばす。


「テメェ⋯⋯」
「この俺の首が欲しいってんなら、俺が相手をしてやる。⋯⋯サッチ、ビスタ。巻き込まれねェよう、名無しとルリチョウを連れて横に退いてろ」


船長の命令に、サッチとビスタは従順に応えた。


「分かった、オヤジ」
「了解」


未だ砂の渇きのダメージが残る二人だが、白ひげの命令に従い、半ば元気な少女二人に引っ張られるようにしてその場から離れた。


ルリチョウはしばらく黙って相手を見つめていたが、男が白ひげに敵わないことを何となく悟っていた。

先程の攻撃の際、名無しが潮風に砂が混じったのに気付いたように、ルリチョウもその異変に気が付いていたのだ。


攻撃というのは、どんなものが来るか相手に気付かれてしまえば防がれる可能性が高まる。

しかし、砂が風に混じったことにより、「砂の能力による攻撃」というのに気付けるようになっていた。


攻撃の直前に砂が伴うのは、父の能力が地震を起こす拳を白い球で包むのと似たようなものなら違うが⋯⋯もしかしたら。


レイピアを抜いて不敵に笑む男を見つめながら、ルリチョウはぐっと目を細めた。


あの男、まだ能力を使いこなせていないかもしれない。
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