dream
□Prototype
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「エルミナ…私は……」
ある夜、隣で寝ている彼女に懺悔するような気持ちで、静かに話しかけた。
「………。……ん……」
「…?」
彼女は、起きたわけではなさそうだった。
少し、うなされている様にも見える。
「………ニー…ル……」
「……」
フッと笑いがこみあげてきて、自嘲気味に笑って天井を見上げた。
「…やはり…いつかは離れていくさだめか…」
当たり前だ。…どんなに頑張って無理やり自分の物にしたとしても……彼女は既に他人の物なのだから。
「すまなかった…。エルミナ…」
涙が…久しぶりに流れた。
それから数日。
彼女の記憶が徐々に戻りかけているらしく、頭を痛そうに抑えている場面を何度も目にした。
…すべて話そう。
すべてを話して、自由にしてやろう。
そして、彼女の愛した男の元に…帰してやる。それが、今の自分にできるせめてもの…。
男がそう思っていた矢先だった。
家に帰ると、彼女が姿を消していた。
どうやら、部下に感づいた者がいたらしく密告されたらしい。
上官に恨まれることを覚悟の上で、それでも尊敬する上官を思いやっての行動だった。
その証拠に、軍内部で事情を知る者はごくわずか。
その結果、彼の罪はテロリストの女と昔同僚だったことを配慮し、親友の叔父が全てなかったことにしてくれた。
借りはパイロットとしての活躍で返してくれればそれで構わないそうだ。
そのかわりに、彼女がどこへ連行されてどうなったのかは一切知ることができなかった。
おそらく…尋問後処刑だろう。
…結局、彼女を殺したのは……。
「私……か」
静かな男のつぶやきが、夜空に溶けて流れた。
初めて口にしてしまった本音はブレーキがきかず、勢いよく口からどんどん滑り出て行く。
「それでまた何も言わずに俺の前からいなくなって、今度は俺は病院で兄さんの遺体と対面すんのかッ?! それとも一生行方不明かッ?! 四年前のアレが事故じゃないってことくらいわかってる…ッ。も…ッ、勘弁…してくれ…ッ」
残業中に職場に病院から電話がかかってきて。かけつけた病院では緊急手術の真っ最中。しかし、この患者は助からないから覚悟してくれと告げられた。
祈るような気持ちで一睡もできずに朝を迎えて、奇跡的に命が助かったことを知る。
すると今度は、意識が戻る可能性はゼロだと告げられた。これから先何十年…いや、おそらくは一生植物人間の兄を世話し続けなければならない。
医師は安楽死という選択肢を提示してくれた。兄を生かすには、まだ若い君の人生に大きな負担をかけることになる。よく考えてくれと。
考えるまでもなかった。考えられるわけがない。これ以上、自分の人生の為に兄を犠牲にするなんてこと。むしろ、これはチャンスだった。
これでやっと…兄さんと対等になれる。
俺が…兄さんの面倒を見る。
「ライル…。俺は…」
「兄さんの考えてることはわかる。俺だって、今の世界に納得してるわけじゃない…」
「それが…お前が反政府組織で活動する理由か?」
「………ッ!!」
絶句した弟に、無表情のまま兄は低い声で続けた。
「気づいてないと思ったか? 一ヶ月も同じ家にいりゃ気づかない方がおかしいだろ」
「…だから? 俺がカタロンだからって兄さんがなんか危ないことしてんのもおあいこだって話かよッ?! ふ…ざけんな…ッ!」
胸に詰まった憤りの塊を吐き出すように言うと、兄はしばらくしてから静かに言った。
「…わかった」
「え…?」
「今から俺が話すことをよく聞け。選択肢は二つだ。一つ目。今まで通り俺たちはお互いに干渉しない。黙ってこのまま俺を行かせてくれ。そのかわり、俺もお前の反政府組織活動については目をつぶる。二つ目。お前が知りたがってる俺の今の状況を全部教えてやる。ただし、そん時はお前も一蓮托生だ。お前が一番嫌ってたことをする羽目になる。俺が今までいた場所に俺と一緒に行くか?」
確実に、比較対象となることを知りながら。
昔の彼なら絶対に逃げただろう。
しかし。この四年間の生活が彼を変えていた。
「決まってんだろ…。後者だ…ッ!!」
兄は、目を伏せて哀しそうに笑った。
以上!
数話分は余裕であった量のプロットを無理やり一話に凝縮した、超高濃度圧縮文章でお届けする短編でした!!
もしも彼らが生存していたら…という妄想です。
実際には彼らは二人とも死んでいるのでこんなことはあり得ません。ただの空想です。
というか、どう考えても助かるはずがないので、どうやって助かったかという部分は書かずに妄想してみました…。
故に、ニールとエルミナとライルとグラハムの名前は台詞の中にしか登場しません。
本文は代名詞だけで綴られた夢物語。
まさしく夢ですね。
というのも…。このような終わり方になっているのはですね…(滝汗)
この短編。プロット段階では二期が始まる前のアレルヤの回想シーンに始まって、二期が終わった後のグラハムさんとライル君の夢落ちで終わる予定だったのです…が。
エルミナが夢の中でうっかりニールの名前を口走ってしまったのと、ニールの死因(作中では事故の原因)をうっかり打ち込んでしまったために、グラハムとライルの夢落ちとして成立しない内容になってしまいました。
(これらはどちらも二人が知りえない情報であるため…)
オチが破綻したにもかかわらず公開するってどうなのという気もするのですが…。
内容はかなり気に入っている短編なので、やっぱり公開しておきます。
楽しんでいただければ幸いです。
それでは…ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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