dream

□第二十五話-夜明けの鐘-
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 13年前。育ての親がテロで死んで、ようやく落ち着いてきた頃、施設の人間と名乗る大人がやってきた。曰く、地元の施設での受け入れはどちらか片方が限界で、もう一人は遠方の国まで行ってもらうことになる。
 そう…どんなに粋がったところで、自分たちはまだ11歳の子供だったということだ。
 妹を地元に残してやってくれと頼んで、自分は育った国を離れた。だが、行きついた先は結局、妹も自分も地獄だった。
 一体どうやって経営しているのか最初から不思議で仕方なかった経営最悪の私設孤児院。超人機関に売り飛ばされて、疑問は解決した。
 この施設は、異常だった。
 モルモットにされているのに、洗脳されてその状況を喜んですらいる子供達と、狂った研究員達。研究員達と自分の関係は最悪だったと言ってもいい。
『今度は何だ…』
 全身を拘束されて、ヘルメット状の装置を頭にはめられた。
『脳量子波の干渉による交感実験だ。君と君の妹のな』
 淡々と説明する白衣の男に、青ざめる。
『交感…て、おい…まさか……』
『賢い子は説明する手間が省けて助かるな。感謝するといい。我々のおかげで君は、妹をあんな風にした連中の顔が見れる』
『…冗談だろ……? なぁ…』
 小さな身体が小刻みに震えていた。
『君も嬉しいだろ? 大事な妹と思い出が共有できて』
『…やめろ………』
『世の中には我々などよりよほど残虐な人間が沢山いるということを君も知った方がいい。終わるころには、この施設が楽園に思える』
『…嫌だ…みたくない…ッ! やめてくれ…ッ』
 妹が苦しんでいる姿など、誰も見たくない。
 自分の手で助け出せないのなら、見たくない。
 問答無用で脳に流れ込んでくる情報からは、目をそらすことも、耳を塞ぐこともできない。
 まだ12歳だった少年は見ているしかなかった。妹が泣き叫びながら凌辱され…少しずつ壊されていく過程の全てを。
 そして聞いた。彼女が脳内で叫んでいた言葉の全てを。

『……兄…さん…た…けて…。…くるし…ぃ』

 気が、狂う。

『あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』





「結局、世の中金だ。俺らが売られたのも、戦争や紛争が起きるのも、全部。金が動くから平気で人間が悪魔になる。世界も歪む」
 最初は、全部ぶっ壊してやろうと思っていた。妹と二人で超人機関から逃げて、必死に妹の看病をしながら機械修理の小さな仕事で食いつないで。それでも人革連の手配犯になっていた自分は妹といつまでも一緒にはいられなかった。上手に一年以上誤魔化し続けたものの、結局見つかって妹を逃がすために一人で追われて大怪我をして逃げきれなくなって、人革連に捕まるかCBに入るかの選択に迫られた時。
 ガンダムで…何もかも破壊してやりたかった。
「けど、それももうヤメだ」
 世界を…変える。
 これ以上、自分の妹やロックオンのような人間を出さないために。
 彼らのような人間が…幸せに生きていける世界にするために。
 戦う。
 スメラギがミッションプランを出した時、誰もが息を飲んだ。敵戦力情報にあった大型モビルアーマーに対し、トリシューラ一機でこれに対応する。
 スメラギはシヴァを殺す気かと誰もが思った。しかし、スメラギにはわかっていた。
 こうしなければ、シヴァはロックオンと同じ行動をとる。
 ロックオンの時と同じ結果を招くくらいなら、せめてミッションプランで彼をサポートして少しでも生き残る可能性を…増やしたかった。
『射出準備完了。射出タイミングをトリシューラに譲渡。…待ってるから』
 画面の中のフェルトに小さく頷いて、出撃する。
「了解。トリシューラ。シヴァ・シンクレア。…出る」
 敵戦力は疑似太陽炉搭載型の生き残りと、そして…。
 疑似太陽炉搭載型の大型モビルアーマー。
 …アルヴァトーレ。
 こいつの存在を知って、シヴァはずっとこの時を待っていた。やめておけばいいのに、わざわざ国連大使がパイロットとして彼と同じ土俵に乗ってくれるというのだ。その腕がどれほどの自信かは知らない。機体の性能もほとんど未知数。しかし、彼にはそんなことは関係なかった。
『正面から抜ける。…先に行くぜ』
 トリシューラから入った通信に、刹那が返す。
「了解。エクシア、GNアームズ、作戦行動に…。……ッ!?」
 話していたところを遮るように突っ込んできた神速の敵機の一撃を剣を抜いて受け止める。
『例のフラッグか…ッ』
 通信窓の中のシヴァに叫び返す。
「……行け…ッ」
『了解…ッ!』
 トリシューラが動いたのを確認して、目の前の機体に向き直る。
 通信が入った。
 音声、画像、共に…フリー。迷う間もなく、刹那は通信をオンにした。
『なんと…あの時の少年かッ!!!?』
「……ッ!!」
 アザディスタンで出会った軍人…だった。
『やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ…』
「貴様は…ッ!!」
 戦闘記録によれば、ブリューナクが最後に交戦していた機体。
 ライトニングはこいつとの交戦中に落ちた。
 そうだ…この機体が…こいつが…ッ。
「ライトの仇をとらせてもらうッ!!」
 叫んだ刹那に、グラハムが低い声で返す。
『それが…君たちの中でのエルミナの呼び名か…』
「何………ッ?!」
『君が私を倒してライトという人の仇をとるというなら…私は君を倒してエルミナの仇をとらせてもらうぞッ!!』
「ラッセッ!!」
『おうよッ!!』
 刹那の叫びに応えるように、GNアームズから光線が飛ぶ。
 一切の無駄のない動きで回避し、そのまま反撃してくるGNフラッグに応戦する。





 どうやら刹那はGNフラッグの足止めをうまく引き受けてくれたようだった。
 シヴァの腕ならば、他のジンクスは問題にならない。
 一気に抜けてド派手な金のモビルアーマーに撃ち込んだ。
「…ッ。GNフィールドか…ッ!!」
 シヴァが撃ちこんだ弾を全て防ぐ、巨大な防御壁。しかし…いかに権力があろうともたかが一人の人間が、これほどの質量の物を一体どうやって用意したのか。この男はヴェーダを完全に掌握しているとでもいうのか。ごく普通の人間が一体どうやって…。
 あるいは…この男の裏にまだ別の何かがいるのか…?
『その機体、ガンダムトリシューラ…』
「……ッ!!」
 画像、音声込の通信だった。思わず息を飲んだシヴァに、画面の中の男は続けた。
『やはり来たか。シヴァ・シンクレア…いや、エドワード・ニエットと呼んだ方がいいか?』
「テメェ…ッ、ヴェーダから俺のデータを…」
『単機で突っ込んできてくれるその愚かしさに感謝するよ。君たち兄妹は危険すぎる…。私の計画にとって……有害な存在だッ!!』
 叫んで大量にファングを撃ってくるアレハンドロの攻撃を高速旋回してすべて回避しながら、実体槍を抜いてGNフィールドに突っ込む。
「何がテメェの計画だッ!! イオリアの計画をただ乗っ取って捻じ曲げただけだろうがッ!!!」
『計画は曲がってなどいないさ。ただ、その主役が私になったというだけだッ!! そうさ。主役はこの……アレハンドロ・コーナーだッ!!!』
「ほざきやがれッ!! 権力に寄生するエゴイストがッ!!!!」
『勝者のエゴイズムこそが常に世界を導いてきた歴史の標だッ!! そして…CBによって破壊された世界を、私が再生する。私色に染め上げてな…ッ!!!』
「ざけんじゃねぇぇぇッ!! 金の為に弱者を平気で地獄に送り込んで虐げる屑がッ!!! テメェに再生なんざされてたまっかッ!!!!」
『フッ…君の妹の事か? 政治のマキャベリズムも理解せんとは…君はもう少し賢い人間だと思っていたが…私の見込み違いだったようだなッ!!!!』
 男が叫んだ瞬間、機首の大型ビーム砲から放たれた巨大な光の柱が虚空を白く染めた。
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