dream

□第二十四話-ロックオン・ストラトス-
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「デュナメスを確認…! トレミーへの帰還ルートに入りました」
 フェルトの声に、ブリッジに安堵の空気が流れる。
「全員無事っスね」
「うん、良かった…」
 もう…あんな思いは誰もしたくなかった。
 ついこの前ライトニングが目の前で機体ごと消滅して、枯れるほど泣いたばかりだというのに。

『ロックオン…ッ、ロックオン…ッ』

 ハロの電子音声が、通信機越しに延々と聞こえていた。
「どうしたのッ?! ハロ?」

『ロックオン…ロックオン…ッ、ロックオン…ロックオン…ッ、ロックオン…ロックオン…ッ、ロックオン…ロックオン…ッ、ロックオン…ロックオン…ッ、ロックオン…ロックオン…ッ、ロックオン…ロックオン…ッ』





 人間の身体は不思議だ。
 枯れるほど泣いたとばかり思っていたのに、まだ、涙が残っているなんて。
「フェルト、ゴメン。フェルト、ゴメン」
「ハロが…悪いわけじゃ…なぃ…ッ」
 彼女の大好きな人たちが…みんな消えていく。
 両親も。
 ライトニングも。
 ロックオンも。
 戦闘後の回収が落ち着いて、ブリッジを出て一人になって。
 それでもフェルトは泣き続けていた。
 昔。ベッドにいた頃のライトニングに教えてもらったお話だと…百万回泣いてから死ぬと、もう二度と生き返らなくて済むらしい。
 だとすれば、自分はあと何回だろう?
 昔。ロックオンと話した場所で、星を見ながら泣き続ける。
 あの時ここで泣いていたのは、両親の為だった。
 あの時泣いていた自分を慰めてくれた彼も、沢山の笑顔をくれた彼女も…もう、いない。
 その時、ドアが…静かに開いた。
「……ッ!?」
 入ってきた人間が、一瞬…ライトニングに見えた。
 刹那と一緒に地上から戻ってきた彼女の兄だった。
「シヴァ……」
 泣き顔のフェルトに呼びかけられて一瞬驚いた顔でこちらを見た後、淋しそうな顔で軽く苦笑して彼はフェルトの横に来てくれた。
「…話は聞いた」
 寄り添ってくれる男の服からは…以前と同じ煙草の匂いがした。
「ライトが………」
「ああ…」
「平気、なの?」
 自分を見下ろしている男が、哀しそうに笑った。
「まさか。ただ、な。覚悟はしてたさ。俺もエルも…ロックオンも。ガンダムマイスターだ。ガンダムに乗って、人を殺め続けている。…それをする以上、いつかこうなる覚悟はしておかなきゃならねぇ。…わかってたことだ」
 淡々と語る男に、少女はつぶやいた。
「…強いね」
「女の子の前ではな」
 思わず極々わずかに笑って、フェルトは言った。
「…ロックオンみたい」
「そうか? あいつは俺よりもう少し真面目かと思ったが」
 少し、首を横に振ってフェルトは続けた。
「優しいところも…似てる」
「フェルト…」
「優しかった…。ロックオンも……ライト姉さんも……優し…かっ…た…ッ!」
 俯いて、ボロボロ涙をこぼしながら肩を震わせるフェルトの肩をそっと抱いて、シヴァが静かに言った。
「そうか…」
 俯いて泣きながら、か細い声で喉から絞り出すように言葉を紡ぐ。
「…みんな………いなくなる…」
「………」
「パパも…ママも……ライト姉さんも………ロックオンも……ッ!」
 何も言わずに髪を撫でてくれている男に、少女は言った。
「…あなたも…いつかいなくなる……」
「俺…か。そうだな。俺もあいつらと同じだ。でもな、フェルト」
「………」
「あいつらだって悔しいのさ」
「悔しい?」
「お前の傍に、いてやれなくなって」
「……」
「そういや…昔、エルに同じこと言ったっけな…」
「ライト姉さんに?」
 頷いて、男は続けた。
「俺らの両親は5歳の時に俺らを捨てていなくなった。その後育ててくれた親も…11ン時にテロで殺された」
「そ…んな話…」
 ライトニングから聞かされていなかった。
 両親が5歳の時に死んだとは聞いていたが。
「エルに聞いてなかったか。二度も親が死んだとき、エルが泣きながら今のお前と同じことを言っていた。『みんないなくなる』ってな。その時に…『おやっさんたちだって俺らを残して逝くの、悔しいと思うぜ』って言った覚えが…」
「シヴァ…」
「ついでにその時、『兄さんもいつかいなくなる』って言われて…」
「………」
「『俺はずっと一緒だ』って…はは…最低だな…。できもしねぇ約束をした」
 フェルトは初めて見る表情だった。
 いつも余裕のあるこの男が。泣きそうに歪んだ顔で笑いながら、続けた。
「だからなんとなくわかる。…あいつらだって、フェルトを置いてくのは辛かったろうぜ」
「…うん……。姉さん…最期に…謝ってた…私に…。みんなに…」
「俺にも聞こえた」
「え…?」
 自分の頭を指差して、男は言った。
「繋がってっから。エルと俺は。だから…さ。あまりあいつらを責めないでやってくれ。…頼む」
「…うん」
「すまねぇ…」
 フェルトの肩を強く抱いたまま、何度も髪を撫でてくれるこの男の方が、本当ならよほど辛いはずなのだということを少女は今更のように痛感していた。
「シヴァ…」
「ん?」
「待ってるから」
「……」
「必ず…戻ってきて。いなく…ならないで」
「………………」
「お願い…」
 男の中で誰かが囁いていた。
 また…するのか? 守れもしない約束を。
「……わかった。俺は必ず戻る。だから、お前も必ず生き残れ」
 フェルトがしっかりと頷いて、腕の中で彼を見上げて言った。

「約束、したから」





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