dream
□第二十四話-ロックオン・ストラトス-
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『なぁ、訊いてもいいか?』
『いいわよん。一応、今は君の先生だからね』
『ライトニング。アンタを狙い撃つにはどうしたらいい?』
『あはははは。君も結構ストレートに訊くねぇ…。でもそれは教えてあげない。私はどんな弾でもかわすッ!』
『ははは。それじゃ授業になってねぇって』
『まぁ…。戦争はスポーツじゃないからね。ルールなんてないのさ。無理に全弾当てようとしなくてもいい。要は勝てばそれでいい。命中率がイコール勝敗じゃないって事。あとは…君なら自分で考えられるよね? ロックオン』
「…ったく…。厳しい先生だぜ」
狙い撃てなくなった今になって、ロックオンの脳裏に出会って間もない頃の彼女の言葉がいくつも蘇ってくる。
今朝、地上の刹那達から報告があった。
ドライを除く、トリニティの壊滅。
そして、ツヴァイが鹵獲されたこと。
…あの男に。
「アリー・アル・サーシェス…」
今、ここを目指している国連軍の情報の中にその機体が混じっていた。
一体どこまで…人をコケにすれば気が済むのか。
スメラギからの指示にあったGNアーマー搭載での対艦攻撃。
「…狙い撃てなくても、要は勝てればそれでいい、か」
考えろ。今の自分で、勝つ方法を。
出撃を指示する放送が、プトレマイオスに響き渡った。
「少し強引じゃないか?」
遠慮がちに言ってくるアレルヤに、ティエリアはぴしゃりと一蹴した。
「ライトの為だ。それに…」
ロックオンは、ティエリアを守って負傷した。
ライトニングは、そのロックオンがいるトレミーを守って死んだ。だから。
「今度は私が彼を守る…ッ」
言い切ったティエリアに、アレルヤは胸中静かに息をついた。
この決意が、吉と出るか凶と出るか。
ヘルメットの通信機越しにブリッジから次々と情報が流れてくる。
『…デュナメスはトレミーで待機』
ハロを抱えたロックオンが胸中で小さく舌打ちする。あれだけ言ってもやはりこうなるのか。
「…ッ」
問答無用で出撃しようとしたらドアのロックパスが変更されていた。
小さく息をついて苦笑する。
この程度でロックオンが止められるなら、わざわざライトニングが皆の前であんなことを言う役など引き受けなくても良かったのだ。
でも、もう彼女はいない。どこにも。
『ロックオン…ッ!!』
ブリッジからスメラギの声が聞こえてくる。
「GNアーマーで対艦攻撃を行う。アンタの作戦通りにやるって事だ」
まだ何か言い続けているスメラギの言葉を聞かずに通信を切る。
こんなことをして、ライトニングは怒っているだろうか。
だが。
「今は戦う…ッ!!」
GNアーマー搭載型のデュナメスで出撃する。
「悪いが今は狙い撃てないんでね…」
要は…勝てばいい。そうだろ? エルミナ。
「圧倒させてもらうぜッ!!」
大量のジンクスを突破して敵艦を捕捉する。
そのまま対艦攻撃に移っていた時だった。
突然飛んできた攻撃にGNアーマーが被弾する。
大破したGNアーマーを捨てて、ドッキングを解除したデュナメスで離脱した。
「……ッ! エルミナのようにはいかないか」
力を貸してくれと胸中叫びながら必死に攻撃してきた機体を探す。
彼女ほどの腕が自分にもあれば…。
「あれは…スローネ…ッ!」
刹那からの報告にあった機体。
「アリー・アル・サーシェスかッ!!」
瞬間、頭の中の何もかもが吹っ飛んだ。
あの男だ。
すべてを狂わせた、根源。
子供の頃の自分が…叫んでいた。
「KPSAのサーシェスだなッ?!」
一般回線の通信を開いて叫ぶ。
もはや、理性などどこにもない。
『クルジスのガキに聞いたかッ!!』
「アイルランドで自爆テロを指示したのはお前かッ!? 何故あんなことを…ッ!!」
『俺は傭兵だぜ? それになぁぁッ!! AEUの軌道エレベータ建設に中東が反発するのは当たり前じゃねえかッ!!!』
「関係ない人間まで巻き込んで…ッ!!!!」
『テメェだって同類じゃねぇかッ!! 紛争根絶を掲げるテロリストさんよぉぉッ!!」
「咎は受けるさ…ッ! お前を倒した後でなぁッ!!!」
もはやこの戦いに正義は存在しなかった。
この男の言う通り、彼は自分の理想の為にテロを起こし、多くの彼と同じ人間を作り出した。
しかし。目の前のこの男ほど純粋な悪にすらなりきれず。
ただ矛盾しきった思考の中ではっきりしていることは、目の前の男を生かしておけないということ。
こんな…奴がいるから…ッ。いつまで経っても世界は。
「絶対に許さねぇッ!!! テメェは戦いを生み出す権化だッ!!」
『わめいてろッ!!! 同じ穴のムジナがぁぁぁッ!!!』
「テメェと一緒にすンじゃねぇぇえぇッ!!! 俺はこの世界を…ッ!!!!」
叫び終わる前に別の角度からジンクスが一機、突っ込んできた。