dream

□第二十三話-ライトニング・ランサー-
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『兄さん……ごめん…』


「エル?」
 脳に軽い衝撃が走って、シヴァが地上で空を見上げる。
『どうした?』
 エクシアからの通信に二、三言適当に返して、再び機体を飛ばす。
「さっきのは…一体…」
 嫌な予感がした。





 ブリューナクを撃ったジンクス三機がキュリオスに撃ち落とされ、国連軍が撤退した後も、彼らはしばらく動けずにいた。
『ブリューナクの反応……完全にロストしました……。…生体反応……ありません…』
 通信機越しに聞こえるフェルトの声は、既に泣いていた。
「そ……んな…姉…さん…。姉さん…ッ」
 キュリオスのコックピットにアレルヤの絶叫が響く。
 ヴァーチェのコックピットも似たような状況だった。
「ライトニング………ランサー……ッ!!」
 信じられないような眼で、ティエリアがブリューナクの消えた空間を凝視していた。
 ブリッジでスメラギが喉から絞り出すように言った。
「ど…して、太陽炉なんかどうでもいいじゃない…ッ。どうして自分が脱出することを考えないのッ?! ライトーーーーッ!!!!」
 スメラギの泣く声がブリッジに響いている中、ロックオンが無言でブリッジを後にした。
 廊下を漂いながら、拳で思いっきり壁を横に殴る。
 涙が…止まらなかった。
「だ…から…ッ、俺を…置いていくなって…ッ。言ってんだろぉが…ッ!! お前…ッ、何度俺を…置いていきゃ気が済むんだよ…ッ!!!」
 微重力の中でコントロールを失い、壁に体を打ちつけながら、ただ、泣き続けていた。
「ぅあぁぁぁぁああああああああッ!!!!」
 失った右目の分まで左目が泣こうとするかのように、止め処なく涙が溢れて微重力に散っていく。





「どこにも…行かないって……ッ、ずっと…ずっと私の…姉さんだって…言ったのに…ッ」
 泣きじゃくるフェルトを、そっとスメラギが抱きしめる。
 生き残った機体の着艦を済ませたクリスが、そっと顔を伏せた。





 アレルヤとティエリアが機体から降りると、回収された太陽炉を前に、イアンが泣いていた。
「こんな形見遺して勝手に逝く奴があるか…ッ。馬鹿野郎…ッ!!!」
 暗い顔でティエリアが呟いた。
「命を投げ出して…トレミーと太陽炉を守ったのか……」
 アレルヤが何も言わずにそっとその場を立ち去った。





「まったく…僕に…生き残れって言ったの…あなたでしょう…? 姉さん…」
 アレルヤの静かな独白に混じって、透明な球が、飛んだ。
 パイロットスーツのまま、どうやって戻ったのかもわからない自室の中でベッドに倒れこむ。
「…あなたが死ぬ必要なんて…なかったんだ…」
 生きていて欲しかった。ただ、それだけだった。
 震えるような声を上げて泣いているアレルヤの頭上で、静かな声がした。

『泣かないで。男の子でしょ?』

「………ッ」

『強くなってね。アレルヤ……』

「姉さん…ッ!!!?」

 泣き顔を上げると、そこはただの見慣れた無機質な自室が広がっていた。
 思わず笑えてしまって、半分笑ったまま、それでも涙は止まらない。
「………。僕だって…泣くことくらい…ありますよ…姉さん…」
 いくら待っても、返してくれる声は聞こえなかった。





「エルミナ…私は……ッ」
 撤収した国連軍の母艦で、男が静かに泣いていた。
 また…目の前で死なせてしまった。
 グラハムの後悔はこれで何度目だろう。
 もう後悔したくなくて宙まで出てきたのではなかったのか?
 確かに彼女は敵だった。
 グラハムとの交戦中のガンダムに援護で撃ってきた味方の判断は正しい。
 正しいのに、それがどこまでも憎い。
 自分と彼女は、分かり合えていた。
 あの瞬間。
 憎しみに変わる前の本当の愛を…知ることができた。
 そして失った。知った瞬間に。
 何故そうなった?
 何故彼女が死ななければならなかった?
 かなうなら返してくれと叫びたい。
 彼女を撃った味方ではなく…CBに。
 結局、彼らはグラハムからすべてを奪った。
 同胞を、恩師を、そして…愛した人も。
 奪っていった。
「ガンダム……ッ」
 憎しみしかこもっていない暗い言葉が喉の奥から迸る。
 握りしめた拳から、紅い球が漏れて飛んでいった。
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