dream

□第二十二話-儚くも永久のカナシ-
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「さて…と。決着をつけるわよ。グラハム」
 国連軍の二度目の強襲に、緊急発進したブリューナクの中でライトニングが呟く。
 敵総数は前回の部隊に援軍が加わって50機。
 うち、疑似太陽炉搭載型は14機。残りは、オーバーフラッグや改良型のイナクト、ティエレン。
 ジンクスだけでも相当厳しいにも関わらず、更にジンクスを支援する大量のMS。
「兄さんがいてくれて良かったわ」
 トリシューラがいなければ、4機でそれらの相手をしなければならなかったところだ。
 そうなればとてもではないが、グラハムと戦っている場合ではなかった。
 既に戦闘が始まっている宙を飛んで、彼を探す。
「いた…。…こっちに気づいたわね」
 何本ものビームが飛び交う戦場を悠々と飛びながら、ライトニングはゆっくりと息を吐いた。





 まっすぐ向かってくるGNフラッグからの攻撃をかわしながら、遠距離武器で応戦する。
『やはり君とは惹かれあう運命か…。そうだ、私たちは戦う運命にあったッ!!』
「言っておくけど、あなたの運命と私の運命は同じじゃない…ッ」
 フッと笑って男は言った。
『つれないな。君らしい答えではあるが』
「グラハム…あなたと決着をつける。あなたを…倒すッ!!!」
 すべての弾をかわしきって、まっすぐ突っ込んできたブリューナクにGNフラッグが武器を抜いて応戦する。
『そうだ……これだ…ッ。初めて君と戦った時に見たこの太刀筋…天才的なまでの回避能力…その全てに私は心を奪われたッ』
 何十回、何百回と増えていく閃光のような武器の交差を楽しむグラハムに、苦しそうな声が届いた。
「何故…ッ?!」
『?』
「何故あなたは戦うの…ッ? 私なら…愛している人とは戦えない…ッ」
 ガッと思いっきり武器を強く打ちつけて男は叫んだ。
『元軍人の君が軍人の私に戦いの意味を問うとは…ナンセンスだなッ!!! 私はずっと君を愛していたッ。君が私の愛をいくら拒もうとも、愛していたッ!!』
「だったらッ!!!」
『だがッ!! 愛は超越すれば憎しみとなるッ!! いきすぎた信仰が、内紛を誘発するようにッ!!』
「……ッ!!!!」
 だから憎んでいるというのか?
 己がすべてをかけて愛した人を…憎めるのか?
 ニール…。
 ライトニングの胸中で、何かが爆発するように湧き上がっていた。
「違う…」
 たとえどんなにすれ違っても、どんなに思いが届かなくても………憎しみに変わったりはしない。
「歪んでる…ッ。あなた…歪んでるわ。それは…愛じゃないッ!!!」
『そうしたのは君だッ!! 君という存在が私を歪めたッ!!!』
「私も昔はそうだった…ッ。自分が歪んでいるのを他人の所為にして…ッ、世界の所為にして…ッ、自分が変わることから逃げていたッ!!!!」
『だから私は…ッ』
「でも今は…ッ」
『君を奪い返すッ!!!!!!』
「もう逃げないッ!!!!!!」
 かけがえのない人たちがいて、愛してくれる人がいて、愛している人がいて。
 真っ直ぐに生きる。
 生き抜く。
 生きて、犯した罪も罰もすべて己で受け止める。
 この世界には必要以上に己を罰しようとする神もいなければ、己の犯した罪を許し、救ってくれる神もいない。
 それでも人は人を愛し、罪の重さと戦いながら分かり合って生きていくことができる。
 そして彼女をそうしたのは、彼。
 あの男が…ニールがいたから変われた。
「グラハム。あなた、人が人を奪えると本気で思っているのッ?!」
『それが愛だ…ッ!!!』
「それはエゴよッ!!!」
 叫んだ瞬間、ビームサーベルとビーム槍の交差からプラズマが飛ぶ。
『ならば君は何故私と戦うッ!!!!』
「愛している人が……いるからよッ!!!!!!」
 叫びながら全力で武器を振ってGNフラッグを引きはがす。
『な………ッ!!!!!!!』
 絶句した男が何か言おうとした瞬間だった。
 突然、ブリューナクのコックピット内が暗転し、機体が無重力に漂った。
「……ッ!! ヴェーダからのバックアップが…ッ」
 操舵不能に陥った機体の中で、祈るように目を閉じる。
 出撃前、システムは完成していた。
 あとは…うまく機能してくれさえすれば。
 クリスと…フェルトが切り替えてくれれば…。
 突然、動きが止まったブリューナクを見ながら、グラハムもまたコックピットの中で思考停止していた。
「何故だ…。何故君はいつもそうやって私の手をすり抜けていく…? 何故…君の手を掴める男がいる…?」
 彼は。
 どこまでも純粋な男だった。
 どこまでも純粋に彼女を思い続け、愛し、その思いがやがて憎しみに変わるほど…強く。
『グラハム…』
 システムが切り替わり、再起動したブリューナクから再び通信が飛ぶ。
 しかし、答えはなかった。
 GNフラッグも、ブリューナクも動かず。
 ただ不思議な睨み合いが続く中、退却信号が上がった。
『エルミナ…』
「グラハム、私は…」
『言うな。…次に会う時が、最後だ』
「……」
 言って引き揚げていくGNフラッグを、ただ無言で見送る。
 次が最後。
 そう…なるだろうな。
 胸中呟いて、戦況を確認する。
 他のマイスターは無事だろうか?
 ヴェーダのバックアップがなくなってシステムダウンしてから、切り替えてもらって復旧するまでに少し時間がかかっていた。
 その間に的にされていなければいいが。
 ライトニングが通信をいれようとした瞬間、通信機からハロの声が響いた。
『デュナメス、損傷! デュナメス、損傷!』
「……?!」
『ロックオン、負傷! ロックオン、負傷!』
「…な……ッ!?」
 絶句するライトニングの耳に、ハロの緊張した機械音声がいつまでも響いていた。
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