dream

□第二十一話-永遠の夜の中で-
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 作業疲れでいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 クリスがブリッジで目覚めると、何故かいつもの自席ではなくブリッジのサイドの椅子に座っていた。
 しかも毛布までかけられている。
「……?」
 目を擦りながら隣を確認すると、フェルトがあどけない顔で自分と同じように肩まで毛布をかぶって眠っている。
 カタカタカタカタ…。キーボードを打つ静かな音に、目をやるとライトニングがクリスの席に、彼女の兄がフェルトの席に座って黙々と作業を進めていた。
「て、なんで二人が作業してるのーーッ?!」
 思わず叫んでしまったクリスに、笑顔でライトニングが答える。
「あら、クリス起きた?」
 苦笑しながらシヴァがこちらを見て言った。
「今のでそっちの子も起きたな」
 し、しまった…。クリスがそう思った時には時すでに遅し。フェルトが目を擦りながら自分と同じように周囲を確認し、そして状況を理解した瞬間、飛び起きた。
「す……すみません…ッ!」
 笑顔でシヴァが言った。
「顔洗って、飯食って来いよ。こっちはもうしばらく引き受ける」
「あ…あの…」
 遠慮がちに何か言いかけたフェルトに、ライトニングが楽しそうに笑いながら言った。
「寝癖、ついてるわよん?」
「え…ッ?! す…すぐ戻ってきますから…ッ」
 恥ずかしそうに慌てて出て行ってしまったフェルトを見送って、クリスが横から端末を覗きこみながらライトニングに訊いた。
「ライト、状況は?」
 クリスに進捗を説明するライトニングの背後で、手を動かしながらシヴァが言った。
「このシステム、基本設計はアンタか?」
「え? そう…だけど、なんで?」
 警戒しながら訊くクリスに、背中を向けたまま男は言った。
「すげぇな。よく出来てる…。俺やエルもこの手のことは相当やりこんだ方だが…クリスって言ったな? アンタも相当やってンじゃねぇか?」
 目を点にして喜色を含んだ声でクリスが返す。
「…え…と。もしかして、同業者…?」
 くすくす笑いながらライトニングが言った。
「前にクリスに言ったでしょ? 私が昔やってたこと」
「てことは…その頃お兄さんも共犯だったのッ?!」
「どっちかっていうと…主犯?」
 ライトニングの台詞に、笑いながらシヴァが言った。
「あの場合、二人とも主犯だ。やってたこと変わンねぇだろ」
「確かに」
 笑い声がブリッジに響く。
 
 その後、元凶悪クラッカー三名による談笑はいつまでも続いていた。





「そりゃ楽しそうで何よりだ」
 部屋に戻って、疲れた顔で苦笑するロックオンに、ライトニングが笑顔で訊いた。
「あらららら。随分疲れてるわね。そんなに大変だったの? 反省会」
 ライトニングがクリスの代わりにシステム構築を手伝っている間、スメラギと他のマイスター達はジンクスの対応策に追われていたらしい。
 前回のような厳しい戦闘が続くと予測される中、少しでも対策を立てなければ自分たちに先はない。
「まぁな。…このままの流れだと例のフラッグはライトに一任することになりそうだ」
「…わかってる」
「悪いな…。負担かけて」
 無表情に呟くロックオンに、ライトニングが軽い笑顔で返した。
「前に言ったでしょ? 私はみんなを守るって。君の引き金の後ろは…私が守るって」
 決して語気は強くなかったが、まっすぐにロックオンの眼を見て話すライトニングに、男は遠い眼で呟いた。
「ほんっと…頼もしい限りだぜ…」
 できれば自分も、戦って誰かを守れる人間になれればと思わなくもない。ライトニングのようにはいかなくても、少しでも…変われるなら。
 思い出したように彼は続けた。
「そういや、兄貴とはちゃんと話せたのか?」
「うん。少しだけだけどね。話せてよかった…」
 穏やかな顔で呟くライトニングに、ホッとしたような顔でロックオンが言った。
「そっか。まぁ、これからゆっくり話せばいいんじゃねぇか? 近くにいるんだし」
 軽く頷いて、しばらくしてからライトニングが唐突に言った。
「ねぇ、ニール」
「ん…?」

「私、この世界に生まれて良かったと思ってる」

「なんで…」
 納得のいかない顔で訊きかえした男に、彼女は言った。
「この世界に兄さんと生まれて、この世界にはみんながいて…。そして、この世界にはニールがいる」
 心底苦い顔で男は返した。
「お前…この世界で自分がどんな目に遭ったかわかってて、それ言うか…? …俺がいなくたって…他の世界で幸せに生きていけるなら、そっちのがいいだろ」
 ライトニングは綺麗に笑って返した。
「どんな世界にいても、あなたがいないと生きてる甲斐がないでしょ?」
 生き甲斐。
 胸中で、男が静かに反芻する。
 信じられないことに、彼にとってのそれは、もう二度と戻ってこない両親でも妹でもなくなりつつあった。
 目の前で微笑んでいる女に触れて口づける。
 これで、前に進める。

 その夜、男は無言でそのまま彼女を抱いた。





「えっと…こう?」
 ブリッジの自席で端末をいじりながら訊くフェルトに、シヴァが横から柔らかい声で返した。
「ああ。そっちのが前より速いだろ?」
「うん。…じゃあ、これは?」
「これもさっきと同じだ。ここンとこを…」
 仲良く端末を眺めながらほのぼのしたやり取りをかわす二人の背後で、自分の端末をいじりながら、クリスが胸中呟いた。
 これは…面白いことになりそうな予感。
「あ……できた」
「今ので大体はわかったろ? あとは慣れりゃ色々応用もきく」
「うん。あの…」
「ん?」
「…ありがとう」
 苦笑する声が漏れた。
「やりゃできるんじゃねぇか」
「え?」
「女の子はそうやって笑ってる方がいい。無理する必要はねぇけどな」
 明るく言い放つ、ライトニングに良く似た綺麗な笑顔の男に、思わず赤面しながらフェルトは言った。
「また教えてもらってもいい?」
「ああ、まぁ。俺がここにいる間ならな」
「やっぱり…行っちゃうんだ」
 とてつもなく淋しそうな顔に、思わず苦笑してフェルトの髪を撫でながらシヴァが彼女の頭上で言った。
「生きてりゃまたそのうち戻ってくるさ。きっとな」
 本気か冗談かもわからないその言葉を頑なに信じて、少女は小さく頷いた。





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