dream

□第二十一話-永遠の夜の中で-
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 命からがらトレミーに着艦して、キュリオスのコックピットでゆっくりとヘルメットを外した。
 汗ばんだ髪を振って両手の指を入れ、乱れた呼吸を整える。
「僕らは…報いを受けようとしているのか…」
 アレルヤの独白に答える者はいなかった。
 彼の片割れですら。
 酷い戦闘だった。
 被弾すれば落ちかねない重みの弾が、回避ポイントがなくなるほど無数に飛んでくる。
 これが…ガンダム同士の戦い。
 まだ少し震えている身体を叱咤して機体から降りる。
 皆も同じように重い面持をしているんだろうな…と、てっきり思っていたのだが。
 何故か、皆の表情は心なしかほころんでいた。
 しかも空気が暖かい。
 不審に思いつつ、皆が見ている方向に思わず目をやって、納得した。





 機体から降りてすぐのところで、十年ぶりに再会した兄妹が無言で抱き合っていた。





 思わず口元から笑みがこぼれて、立ち止まる。
 背後から肩を叩かれて振り向くと、ロックオンが似たような表情で立っていた。
 促されるままに一緒にブリッジへ移動する。
「会いたくないとか言ってたのに…」
 苦笑しながらアレルヤが言うと、前にいるロックオンが振り向かずに言った。
「ま、実際会っちまえばあんなもんさ。言葉ではなんだかんだ言っても、な」
「……良かった…」
 姉さん…。心の中で付け加えて暖かい気持ちに浸る。
 こんな時なのに、それでも人はこんなに暖かい気持ちになれるものなのか。
 それも、人のなす業なのかもしれない。





「…国連の…大使って…ッ!?」
 思わず叫んだスメラギに、シヴァが口元で指を一本立てる。
 部屋にいるのは、二人だけだった。
「調べんのはそこまでで限界だったが、まぁ、確定事項だ」
「…トリニティを辿ってそんなところにたどり着くなんて…。それにしても、あなたはどうしてここに戻ってきてくれる気になったの?」
 スメラギの予想ではもうここには二度と戻ってこないはずの男だった。シヴァは苦笑して言った。
「俺も…結局は人の子だったってこった」
 遠い眼をして言う彼に暖かい表情で笑って、スメラギは言った。
「そう…」
 微笑んで目を伏せているスメラギに、低い声で男は続けた。
「それと」
「?」
「例の国連のお偉いさんが宙に出たみたいなんでな。奴を探すついでだ」
「……。あなた、どうしてまだ彼を探しているの? トリニティが国連軍に追われ、ラグナ・ハーヴェイが暗殺され、疑似太陽炉が国連軍に渡った今。もうアレハンドロを追う必要はないはずよ」
 意味がないのだ。しかし、シヴァは無表情のまま言い放った。
「…サクリファイス・エスケープ」
「…ッ!」
 ものの見事に動揺したスメラギの顔を見て、口元だけで男は笑った。
「その顔を見ると、アンタも調べたんだろ? ミス・スメラギ。なら知ってるはずだ。巨額の予算が消えてるってことも」
「…ま……さか…」
「上前をはねてたのは国連だぜ。笑うだろ? ついでに仕組みを考えたのも連中だ。立案自体は自分たちでせずに人にやらせてたけどな」
 言葉が出なかった。やはり…シヴァはそこまで調べて…。
 絶句しているスメラギに、シヴァが低い声で言った。
「そういうわけだ。…奴は俺がやる」
「私にあなたの復讐を手伝えってことかしら?」
「んな怖い顔すんなって。ただ、俺に奴を譲ってくれりゃ、それでいい。作戦立ててるアンタならできるだろ? それさえしてくれりゃ、俺はアンタの作戦通りに動く」
「……考えておくわ」
「頼むぜ」
 渋い顔のスメラギに軽く笑って、男はさりげなく話題を変えた。
「そういや、例のシステムの方はどうだ? いけそうか?」
「今、七割ってところね…。流石にヴェーダからのバックアップを切り離して完全にこちらで構築したシステムと入れ替えるとなると…」
 以前、シヴァがここへ来たときにスメラギと話していたことだった。あれから少しずつ進めていたものの、事はそう簡単ではなかった。
「後でそっちも手を貸すぜ。俺の機体もヴェーダと繋がってる。流石に戦闘中にシステムダウンくらっちゃたまんねぇ」
 苦笑するシヴァに少し明るい表情になってスメラギが言った。
「そういえば、あなたもライトと同じで昔からクラッカーだったのよね。超人機関のシステムをダウンさせたのも」
 楽しそうに笑いながら彼は答えた。
「あん時は惜しかったよなぁ。もうちょっとで再起不能にしてやれたってのに…。ま、逃げる方が優先だったし、仕方ねぇな」
 くすくす笑いながら、スメラギが言った。
「わかってると思うけど、せっかく戻ってきたんだから、ちゃんとライトと話してあげてね。あの子…ああ見えていつも無理してるから」
 切なそうな表情で、男は軽く笑うだけだった。
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