dream

□第二十話-真成-
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「姉さん…ホントに、いいの?」
 カタカタカタカタ…無機質な音に混じってフェルトの声がブリッジに響く。
「好きでやってるから気にしなくていいわよん? それにホラ、こうやってプログラミング作業やってると、昔の血が騒ぐって言うかなんていうか…」
 ほんの少し笑ってから、フェルトが言った。
「…お兄さんと二人で子供の頃にいっぱいやってたんだよね」
 ライトニングがCBに拾われて、まだベッドにいた頃。フェルトが世話をしていた頃に、たくさん聞いた話の中にあった。
「んふふ。物を作るのって楽しいのよね〜。システムもロボットも」
「……姉さんは、すごいね」
「ん?」
「ううん。…なんでもない」
 軽く苦笑して背中合わせに座っているフェルトに言ってやる。
「どうしたの? フェルト」
「なんか、ライト姉さんとこうして二人っきりで話すの…久しぶりだから」
「そうね。最近忙しかったものね。んふふ。淋しかった?」
「そ、そんなこと、ないけど」
「ならいいけど」
 昔からずっと変わらない。余裕のある声だった。
 大人びていて、堂々としていて、何でもできるのに、気さくで面白くて。
 この人と話すのが楽しくて、この人の話してくれることが本当に面白くて、用が無くても毎日病室に何時間も行って沢山話した。
 本当の姉みたいに甘えさせてくれるこの人が、大好きだった。
 病室で、ライトニングと二人きりで話していた頃は、フェルトだけの姉さんだった。
 気が付いたら、ライトニングはマイスターになって、他のマイスターとも話すようになっていった。
 それだけじゃない。技術関係や、戦術関係、そして、自分やクリスのようなシステム関係の能力も持っていた彼女は、各方面でどんどん必要とされていった。
 それと同時に…どんどんフェルトと話せる時間は減っていった。
 もちろん、会えば相変わらずフェルトのことを可愛がってくれたし、いつものあの笑顔を向けてくれたけれど。
 それでも淋しかった。
 独占してはいけないことはわかっていた。
 独占できないことも知っていた。
 けれど、二人っきりだった頃から親しくしていたからだろうか。自分だけは彼女にとって特別な存在でありたかった。
 彼女は誰にでも優しいけれど。大勢の中の一人ではなく、特別大事な人に…なりたかった。
 ロックオンとの関係を知ったのは、少し前。
 ロックオンがブリッジで言った一言。
 あの後、他のみんなはなんだかんだいっても祝福していたけれど。
 なんとなく…取られたような気分だった。
 自分がどんなに頑張っても独占できなかった人を…。独占しちゃいけないと思って我慢した人を。
 しかし、悔しい気持ちと同時に納得できるような、そんな気もした。
 ロックオンのことが大好きだった。
 優しくて、暖かくて、大人で。
 他の人ならともかく、彼なら…許せる気がした。
 要するに……完敗だ。
 だからせめて。祝福しよう。
「ライト姉さん」
「ん〜?」
「おめでとうございます」
「何々? いきなり…」
 突然の物言いに思わず笑いながら、ライトニングが振り向く。
「ロックオンが…この前…」
「〜〜〜ッ! ようやく忘れてかけてたのに…………。…ありがと」
 途端に真っ赤になって端末の方に向き直って、苦笑しながらも手は止めないライトニングに、自分も手を動かしながらフェルトが続けた。
「でも…良かった」
 まだ真っ赤になったまま、ライトニングが低い声で訊く。
「……んん…?」
「ロックオンで」
「フェルト?」
「姉さんには…幸せになって欲しいから。ロックオンは…優しいから」
 この人の過去は知っている。だからこそ…優しい人と一緒になれて本当に良かったと思う。
 気が付くと、ライトニングがフェルトの椅子の真後ろに立っていた。
 後ろからゆっくりと抱きしめるように腕を回して耳元で彼女は言った。
「どうしたの? 急に」
「………」
「フェルト」
 耳元の声が、優しかった。優しくて…つい本音がこぼれてしまった。
「…姉さんが…いなくなるような…気がして」
 すごく近くにいるのに、どんどん遠い人になっていくようで。
「そんなわけないでしょ? どこにも行かないって」
「でも…ロックオンが……」
 泣きだしそうな声に、ライトニングが横に回ってフェルトの頭を抱きしめて、言った。
「誰と一緒になっても、私はずっとフェルトのライト姉さんだから…」
「………ッ! …ずっと?」
「うん。ずーっと」
「ホントに…?」
「んふふ。お姉さん、こう見えて本当に妹みたいに思ってるのよ?」
 嬉しかった。
 目に溜まった涙をそっと拭う。
 席に戻りかけていたライトニングに訊く。
「私も…姉さんだと思ってていい? ずっと」
「ずっとね」
 振り向き様の笑顔は、大好きないつものあの笑顔だった。




 キーボードを打つ無機質な音の間に、暖かい声が響く。

「姉さん」

「んー?」

「呼んでみただけ」

「はいはい。好きなだけ呼びなさい」


「…うん。そうする」




 
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