dream

□第十九話-侵攻-
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「本当に良かったの?」
 夜。コンテナのライトニングの部屋でいつものように話していると、ライトニングが軽く笑いながら訊いてきた。
「ん?」
 結局あの後スメラギから、エクシア、ブリューナク、デュナメス、ヴァーチェの四機に、地上での待機命令が出た。
 軽く訊き返すと、ライトニングが口元だけで笑ったまま、言った。

「刹那を撃たなくて」

 昼間。この島に四機で戻ってきた後、ロックオンは刹那を問いただした。
 そして。
 刹那に銃を向けた。
「…わかってんだろ? 訊かなくても」
 笑って返してくれたロックオンに少しホッとしながら、ライトニングが同じような顔で笑う。
「ま、それが君のいいところなんだけど…ね」
 この口調。ロックオンには何となく察しがついた。今の彼女は…仕事モードだ。
「どうした? 何か気になるか?」
「ん…。君がスカウトされた理由って、射撃の腕がいいからってこと以外に何か聞かされてない?」
 唐突な質問だったが、意味があると信じて必死に心当たりを探す。しかし…ない。
「いや……」
「そっか…」
 なんとなく質問の意味が読めてきて苦い顔でロックオンが言った。
「おいまさか…。俺と刹那が意図的に配置されてるって考えてんのか?」
 ライトニングがはっきりと言った。
「私がスカウトする側なら…この配置はあり得ない。だって人間だよ? 秘匿義務なんて完璧に守られるわけではないし、いつどんな理由で判明するかわからない。そんな者同士を組織内に入れておくだけでも相当なリスクなのに、両方揃えてマイスター。最悪ガンダム同士で戦い始めたっておかしくないような人員の配置をするって…いくらナドレのトライアルシステムがあるからって、無茶苦茶だと思わない?」
「………確かに、言われてみりゃそうだ…。でも…なら誰が何の目的で…」
「どうしてもマイスターにしなきゃいけない目的があったか、もしくはイレギュラーだったか」
「イレギュラー?」
 頷いて、彼女は続けた。
「君か、刹那のどちらかが、元々マイスターになる予定じゃなかったのに、誰かの目的の為に無理矢理そうなった…とかね」
「………」
 もしそうだとすると、それは自分ではなく刹那の方なんじゃないだろうか。彼は何故か、根拠もなくそんな気がしたが口には出さなかった。
 ライトニングが続けた。
「どっちにしても、この組織。岩は一枚じゃないと思う。今まで末端の実行部隊である私たちは殆ど情報をもらっていなかったし、それはある意味正解なんだけど…」
 不安そうな顔に、ロックオンは軽く笑って言った。
「なら、それでいいんじゃねぇか? 少なくとも実行部隊である俺たちの岩が一枚なら、問題ない。組織がどうあろうと、俺たちのすることは変わんねぇよ」
 戦争の根絶。計画の遂行。その為の、ガンダムによる武力介入。世界を根本的に変える、圧倒的な力。
「…そうね。ごめんなさい。突然変な話して」
 軽く笑っているライトニングに、ロックオンが同じような顔で笑う。
「いや。元々は俺が昼間刹那に話したことから始まった話だからな」
「…仇討ち、ね」
 苦笑しながらライトニングが言う。ほんの少し重い顔で、それでも笑って男は訊いた。
「しようと思ったことは…ないか。エルなら…」
 どうも彼女はそういった思考を持たないように見えた。ことこの件に限れば、彼女の兄は逆にロックオンと同じ思考をもっていそうな気がする。
「あるわ」
「意外だな」
 小さく笑って彼女は続けた。
「でも…不思議ね。いつもうまくいかないの。孤児院のみんなの仇をとろうと思った時も…米軍のみんなの仇をとろうと思った時も…」
 もっとも、米軍のみんなの仇はあの男がとってくれたけれど。胸中付け足した彼女に、ロックオンが重く呟く。
「…そうか…そうだったな」
 忘れていた。彼女は既に…何度も戦っていた。
「けど」
「ん?」
「育ての親がテロで死んだときは不思議と仇をとろうとは思わなかったのよね…」
 遠い眼をして言ったライトニングに思わず絶句して突っ込むロックオン。
「な……テロってお前…ッ」
 ケロッとした顔でライトニングが言った。
「あ、言ってなかったかしら…ね」
「〜〜〜……ッ。聞いてねぇよ…ッ。ったく…」
 なんつー爆弾を放り投げてくれるんだと言わんばかりに片手で顔を覆って絶句しているロックオンに、ライトニングが慌てて軽い口調で言った。
「で、でも、犯人はちゃんとみんな捕まってるからッ! 組織も壊滅してるし…」
「………そうか…」
 男の表情が重い。苦笑してライトニングが言った。
「その組織の割り出しも実行犯の居場所の特定も、そしてその情報をこっそりリークしたのも、実は全部兄さんなんだけど、ね」
「まじかよ…当時いくつだったんだ?」
「十一歳」
「……………」
 しばらく黙っていたが、落ち着いた表情で彼は口を開いた。
「……俺は十四だった。家族がテロで殺された時」
 珍しい顔つきだった。
 大人になりきれない少年のような、少年に二度と戻れない大人のような。
「それから…どうしてたの?」
 同情するような顔ではなく、いたわるような顔でもなく。穏やかな表情で優しく訊いたライトニングに、静かな声で彼は語り始めた。
「それからは…」
 ぽつり、ぽつりと、話していく。
 自分の事。弟との事。今まで誰にも語ったことのない、彼が生きてきた道。
 ライトニングはずっと、透明な眼をしてそれを静かに聞いていた。
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