dream
□第十九話-侵攻-
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あれから数日。突然兄から通信が入った。
「兄さんから…緊急暗号通信…」
誰もいない自分のコンテナで、ライトニングが端末を開く。
どうやらトレミーを含むこちら側の全メンバーに向けて送信されているようだった。
「トリニティが…アイリス社の軍事工場を攻撃って…ッ!! 工員は全員民間人でしょ…?」
送信されてきた内容によれば、800名以上が犠牲になったらしい。
どうやら、あれだけ自分と兄に手酷く叩かれたにもかかわらず、彼らは全く懲りていないようだった。
兄は…一体どんな気持ちでこの通信を送ってきたのか。
兄は、トリニティの裏側を調べようとしていた。おそらく彼はラグナ・ハーヴェイを調べてそこから辿ろうとしているのだろうが、彼の実力をもってしてもそれはかなり困難であるように思えた。
ライトニングの予想では、ラグナ・ハーヴェイに指示を出している人間は十中八九CB内の人間だ。いまだ組織の中にいて、組織を裏切っている人間。ヴェーダによって何重にもアクセス権を設定して情報を秘匿しているCBの人間をたった一人で調べるのは難しい。200年間の計画期間、一度たりとも情報漏えいのなかった組織の力は伊達ではないのだ。
やはり、スメラギに許可をとって自分たちも手伝った方が…。
ライトニングがそこまで考えた瞬間だった。
外がなんだか騒がしい。
「…て、エクシアッ?!」
コンテナの外で、ライトニングが目を点にしている中、飛び立ったエクシアが空のかなたへと消えていった。
隣から、呑気な声がした。
「あーあ。ついにキレちまったな、あのきかん坊は…」
苦笑しているロックオンに、思わず半眼になって突っ込む。
「止めなかったわね?」
「さて。なんのことやら」
シレっととぼけるロックオンの足元で、ハロが元気良くはねた。
「ロックオン、トメナカッタ! トメナカッタ!」
「ハロ、見てた?」
笑っているロックオンに眉に皺を寄せるライトニング。
「私の時と随分反応が違うじゃないの?」
当然、無断出撃に対する…である。
「連中にキレてんのはお前らだけじゃないって事だ。それにな…刹那の気持ちもわかるのさ」
「そうね…。あの子は、ガンダムそのものになろうとしている。トリニティがガンダムという機体に乗っている以上、ああなるのは当然よね…。で、あなたも狙い撃つ気満々なわけ?」
ロックオンが苦笑して肩をすくめた。
「とりあえずはミス・スメラギに連絡してから…」
ロックオンの台詞を遮るように、二人の持っていた通信機が音を立てる。
「エクシアがトリニティと交戦開始。…ヴァーチェが…交戦に加わったって、わざわざ宙からッ?!」
もう何が何やら。驚くライトニングに、ロックオンが苦笑する。
「ティエリア…」
「ちょっとちょっと、アレルヤまでこっちに来るんじゃないでしょうね?」
笑いを収めて、ロックオンが言った。
「ハロ。ミス・スメラギに緊急暗号通信だ」
「リョウカイ! リョウカイ!」
スメラギからの返信は「好きにしろ」ということだったらしい。
デュナメスとブリューナクで現場に向かったものの、結果は今までと変わらず。
…逃げられてしまった。
本当なら、もう絶対に逃がさずに倒してしまわなければならない相手だったにもかかわらず。
そうなった原因は、以前ライトニングが懸念していた、マイスターの情報を意図的にリークすることで動揺を誘われた…ということ。
この土壇場で使ってくるあたり、トリニティの長兄の性格の悪さは相当だ。
しかし、ライトニングがそれ以上に驚いたこと。
刹那がKPSA出身者だということは以前聞いた。だが。まさか…ロックオンが。
ロックオンの家族がテロで死んだ話は知っていた。彼がアイルランド出身だということも。しかし、そもそも北アイルランドは紛争問題によるテロが有名だ。アイルランドでテロと言われれば中東テロ組織のKPSAより、当然北アイルランドのテロ組織、リアルIRAを連想する。
まさか、KPSAのテロが原因だったとは。
そして…ヴェーダはそれを知って彼ら二人を同じマイスターとして起用し、同部隊で戦わせていた…。
やはりこの組織には、何かあるとしか思えなかった。
こんなピンポイントに狙った人選は、普通ではありえない。
一体、彼らをマイスターに選んだのは誰なのか。よもや量子型演算システムであるヴェーダが全ての人選を行っているとは到底思えなかった。
それは人為的な何か…そう、歪んだ人間の意思が、そこには流れているような。
ライトニングには、そう思えた。