dream

□第十八話-トリニティ-
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「あれで良かったのか?」
 夕焼けの空を飛びながら、刹那がブリューナクに通信を入れた。
『ええ。本当はもう少し徹底的に話がしたいところだけど…。近くの基地から軍のMS隊も近づいてきてたし、今はあのくらいの警告が限界ね。これでまだ繰り返すようなら…その時は』
「戦うのか? 奴らと」
『そうならないことを神に祈りたいけれど…ね。不在ならしょうがない。彼らが自分の頭で考えてくれることを期待するよ』
「…そうか」
 珍しく心の中で笑ってしまった刹那に、真剣な声が飛んだ。
『刹那』
「? どうした?」
『…気を付けてね』
「?」
『彼らはヴェーダにしか載っていない私のデータを知っていた。…他のマイスターの情報も持っている可能性が高い。いざって時に、動揺させる目的で使ってくるかもしれない』
「ッ! …了解」
 今までの連中の言動や行動を考えれば十分すぎるほどに有り得た。
 まして刹那の場合、過去が過去だ。
 もっとも、自分が知らないだけで他のマイスター達も刹那やライトニング並みに知られたくない過去を山ほど抱えているのかもしれないが。






 ライトニングの期待もむなしく、トリニティの活動は更に続いた。再び彼らの動きから次のターゲットを予測して、出撃許可をプトレマイオスに発信する。
「刹那。…行くよ」
「了解」
 再びエクシアを発進させる。
『刹那。プトレマイオスからの返信、そっちに転送するよ。見てもらえばわかるとおり、今回は多分、前回みたいにお話して終わりってわけにはいかないと思う』
「…二機のガンダムをさらに追加投入。指定ポイントで合流ののち、トリニティへの武力介入…」
 二機…。誰と誰だ?
 資料を確認して刹那の手が止まる。
 一機はデュナメス…。もう一機は。
「これは…」
 苦笑する声が聞こえてきた。
『この前スーちゃんから報告にあった、新しいガンダム…ね。私たちが知らない間にマイスターが一人増えちゃったってことかしら?』
「ライト、この人はアンタの…」
『ま、とりあえずは味方で良かったってことで』
 苦笑しているライトニングに、察したように刹那がつぶやいた。
「了解」





「ブリューナクから各機へ。漫才トリオの皆様は本日、イタリア北東部に向かっているわん」
 楽しそうに言う声に、デュナメスから通信窓が開いた。
『この前の牽制で、何か変わったことは?』
「彼らの行動は変化なし…ね。一応あの子たちに警告して釘は挿してみたんだけど…」
 通信窓がもう一つ増える。
『詰めが甘いんだよ。自分のしてることもわからねぇ馬鹿に何を期待したって無駄だ』
『あらららら…。そこまで言っちゃう?』
 ライトニングの苦笑する声に、答える男の声。
『連中、どうせ何も考えずに命令にだけ従ってんだろ? んな奴らにお前が警告したところで、どっちを取るかは目に見えてんだろ』
『そうは思ってても、物は試しって言うじゃない?』
『優しすぎンだよ…ったく…』
 笑顔でにこやかに世間話のような会話をつづける二人に、戸惑いながら刹那がそっとデュナメスにだけ通信を入れた。
「ロックオン…。どういう状況だ、これは…」
 苦い顔で軽く息をついて、ロックオンが返した。
『感動の対面…ってのはまぁないと思ってたけどな。素知らぬふりを決め込んでやがる、こいつら…。ったく』
「いいのか? このまま作戦行動に移って」
『大丈夫だ。作戦上は問題ない。とにかく今は放っとけ。他人にどうこうできる世界じゃねぇよ』
「…了解」





 しかし、二度目の交戦はほぼ空振りに終わった。
 四機のガンダムの接近に気づいたヨハンが撤収を急いだからだ。
『完全に警戒されてんな…』
 苦笑して呟くシヴァに、ロックオンが同じような顔で苦笑する。
『ライト…お前、前回どんな警告の仕方したんだ?』
 ライトニングが苦い顔で叫ぶ。
「ちょっとちょっとッ、私は別にそんなに怖がらせるような言い方してない…………よね? 刹那」
『なぜ俺に振る…』
 苦い顔で返してくる刹那からの通信窓の隣に並んだ二つの通信窓から楽しそうな声が響く。
『エルも何気に昔から精神攻撃が得意なんだよな』
『確かに。なんとなくわかるぜ、それ』
 以前、何度かザクザクと心を見えない何かで突き刺されまくったロックオンが笑いながら同意する。シヴァが続けた。
『だろ? 笑顔でチクチク刺してくるタイプだよな』
 おー、わかるわかる。居酒屋のような楽しそうな笑い声が二人分、通信機から響く。ライトニングの低い声がコックピットに響いた。
「…刹那。そこのガンダム二機を組織内紛争の幇助対象と断定。駆逐しちゃってちょうだい」
『了解。エクシア、目標を駆逐す…』
 真顔でとんでもないことを言い始める刹那に、慌てて二人が叫んだ。
『ちょ…待てエル、んなことしてる場合じゃねぇだろッ!』
『つか刹那、ライトッ! いつの間にお前らそんなに仲良くなったッ?!』
 ロックオンの台詞に、ライトニングが苦い顔で返した。
「それはこっちの台詞よ…。あなたたち、いつの間にそんなに仲良くなったわけ?」
 苦笑してロックオンが何か言いかけた時だった。

 嫌な気配が、悪意の塊が矢のようにライトニングの脳を貫いた。
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