dream

□第十七話-刹那・F・セイエイ-
1ページ/3ページ



 どうしてこんなことになったんだろう。

 どうしてこんな目に…あうんだろう。
 

 ああ。私がもっといい子にしていたら…。

 もっと綺麗な魂を持っていたら。


 そうしたら、神様は私を幸せにしてくれただろうか…?





「………ッ!!」
 目が覚めると、外はまだ真っ暗だった。
 額に手を当てて、汗で張り付いた前髪をかきあげる。
 いつもの自分のコンテナ内の寝室。
 ゆっくりと体を起こして、ライトニングはそっと息をついた。
 またあの頃の夢だ。夢なのに、苦痛がやけにリアルなのは何故だろうと、冷やかに考える。
 押さえつけてくる手も、身体の痛みも、どうしようもない気持ちの悪さも。何年も経った今でさえ、昨日の事のように生々しい。
 …慣れているけど。
 軽くため息をついてもう一度布団に入る。
 眠れない夜は、いつもこの繰り返し。





「あ、刹那起きた?」
 刹那が起きると、何故か食事が出来ていた。
「なんでアンタがここにいる…」
 自分のコンテナ内にいつの間にか侵入していたライトニングに眉をしかめていると、二人分の朝食の配膳をしながら彼女は笑顔で答えた。
「んふふ。お姉さん、ちょっと早く起きちゃったから、たまには朝ご飯でも作ってあげようかな〜って」
「……なんのつもりだ」
 無表情に言う刹那に、いつもの笑顔のままライトニングは言った。
「お詫びのつもり」
「詫び…?」
「前にアザディスタンのミッションの時に、私、放り出して出て行っちゃったでしょ? あの時、刹那とロックオンに私の分まで働いてもらったから、そのお礼とお詫びに…ね? だから遠慮なく食べちゃって。その方が私もスッキリするから」
 しばらく黙っていたが、やがて刹那は無表情のまま呟いた。
「了解」
 出された料理を無言で食べる刹那に、ライトニングが軽い口調で訊く。
「どう? 口に合うといいけど」
「食べられるなら、俺はなんでもいい」
 楽しそうに笑いながら、ライトニングが言う。
「好き嫌いがないなんて、なんていい子なのかしらね。お姉さん、嬉しいわ」
 しかし、その軽口を完全に無視して刹那は言い放った。
「…ロックオンにも、同じ詫びをしたのか?」
「まぁね。ロックオンも刹那も食事一回。これで許してくれると嬉しいよ」
 苦笑しているライトニングに、刹那は淡々と言った。
「俺は初めから、アンタが俺に迷惑をかけたとは思っていない。詫びる必要もない」
「でも、大変だったでしょ? あのアザディスタンの一件」
 刹那からの報告を受けたときは、本当に驚いた。武装解除したガンダムで、救助した要人を王宮へ送り届け、一時的とはいえアザディスタンの暴動を鎮静化したのだ。武力を…行使せずに。
「あの時…」
「ん?」
 食事の手を止めて、刹那はライトニングの顔を真っ直ぐ見て、言った。

「アザディスタンでのミッションの報告をしたとき、アンタが初めて俺に笑ってくれた。……嬉しかった」

「刹那…」
 無表情でこちらを見つめてくる刹那に思わず硬直してしまう。
 そう。気づいていたのはロックオンだけじゃなかった。
 刹那には…初めから笑顔は見抜かれていたらしい。
 ライトニングは苦い顔で笑った。
「まいったな……」
 ロックオンだけならまだしも、刹那にも見抜かれるとは。
「私もまだまだ修行が足りないわね」
 笑って肩をすくめているライトニングに、刹那が訊いた。
「ライトニング。何故…アンタはそうやって無理に笑おうとする? 俺がアンタの立場なら…笑っていられるとは思えない」
 正直な感想に、思わず苦笑してから答える。
「んー…。そう…ねぇ。刹那も…あの時聞いてたから知ってるのよね…」
 昔、ライトニングの身に起きたこと。
 刹那が静かに目を伏せた。
「ああ。…知ってる」
「刹那。私はね。ずっと、ああなったのは全部自分の所為だって、そう思ってた」
「? どういうことだ?」
「私は…子供の頃、あまりいい人間じゃなかったのよ。恥ずかしい話だけどね。悪いことばかりして、心配してくれる育ての親の言うことなんてこれっぽっちも聞かずに、楽しいことを探すのに夢中だった。今が楽しければ…自分たちだけが楽しければ何でもよかったの。そうやって、両親がいない淋しさとか、物足りなさを一時的に紛らわせるために、多くの人を傷つけたわ。ほんの少し勉強ができるのを頭がいいと勘違いして周囲の大人を見下して、兄さん以外の人に心を開こうとしなかった。…助けようとしてくれた人は、沢山いたのに…ね」
「ライトニング……」
「だから、育ててくれた両親が死んで、引き取り先の孤児院にもあっさり見捨てられて、自分が売られたんだってことを理解したとき…。これは今までしてきたことの報いなんだって思った」
 どうしようもないほどの地獄のような苦痛の中で、ずっと思っていた。

「私が、悪いことばかりしてきたから。神様が怒ってるんだって。これは…その罰なんだって、ね」
 酷く悲しそうな眼で話しながら、彼女はそれでも笑っていた。


 少年は彼女に言った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ