dream

□第十六話-シヴァ・シンクレア-
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「君は、何者だ? あのガンダムがヴェーダに記載されていないのは何故だ? 何故君はオリジナルの太陽炉を所有している? 君とトリニティとの関係は?」
 ティエリアによる、質問攻めが始まっていた。意外にも、シヴァは嫌な顔一つせずにそれらの質問に丁寧に答えて言った。
「俺がガンダムマイスターってのは最初に言ったろ? 俺は一応、お前らのセカンドチームってことになってる。チームっつっても今のトコ、ワンマンアーミーだけどな。言っとくけど、俺とトリシューラの存在はヴェーダにちゃんと載ってんだぜ? 存在そのものがレベル7だけどな。太陽炉も同じだ。んで、何度も言うが俺はあのトリニティとかいう三バカとは関係ねぇ」
 最後の部分をやたらと強調するシヴァに、ティエリアが静かに訊いた。
「なら何故君は今になって現れた?」
 真剣な顔でシヴァが淡々と言った。
「セカンドチームの…要するに、俺の活動はお前らの活動がヴェーダの計画通りに推移しなくなった場合に、計画遂行の為に必要と思われる行動をとることなんだよ。俺にはその目的の為になら、ヴェーダからの指示以外に独自の判断で行動できる権限がある。つまり、この前のタクラマカンの一件がその活動条件に該当すると俺は判断した。今まで出てこなかったのはお前らのしてることが妥当だと思ってたからだ」
 その場にいる全員が黙って彼の話に聞き入っていた。少し落ち着いた声でティエリアが言った。
「なるほど。確かに計画に不測の事態が起きた場合の保険という本来の意味でのセカンドチームは君の言うような存在だ…。しかし…何故そのことを我々に話しに来た? 守秘義務を破ることになるばかりか、我々に万一のことが生じた場合に計画を引き継ぐ者として君は我々と接触すべきではなかったはずだ」
 軽く苦笑して、シヴァが言った。
「万一の時に計画を引き継ぐとか、やめようぜ? そういう組織内での身内切りみてぇなの、今どき流行らねぇよ。そうなるくらいなら俺はお前らを生き残らせて計画の続きをお前らにさせる方を選ぶぜ。それにお前らが今、本来の活動ができない事態に陥ってんのは確かだろ? …あの三バカの所為でな。だったら俺が出張ってもいいだろって判断だ。守秘義務より目的の遂行が優先。今のこの状況なら俺の立場でお前らに隠し事しても意味がねぇだろ?」
 正論過ぎて言葉が出なかった。
 普段ふざけたことばかり言っているのに、突然真面目になったかと思うと、誰も言い返せないほどの正論を放ってくる。…本当に、似ている。
 ロックオンが真顔で訊いた。
「トリニティもガンダムを所有し、俺たちと同じように戦争の根絶を目的に武力介入を行っている。今の話が本当なら、お前は奴らの行動を止める権限がないんじゃないのか?」
 ひゅうッと喉を鳴らして嬉しそうにシヴァが好戦的な笑顔で言った。
「鋭いねぇ、アンタ。いいところに気づくじゃねぇか。…と、言いたいところだがその心配はないぜ。何故なら…」
「?」
 嬉しそうな笑顔で彼は言った。
「俺はあいつらが嫌いだ」
 絶句する一同を前に、彼は笑顔で続けた。
「言ったろ? 俺には計画遂行のためなら独自の判断で行動する権限があるってな。俺は俺の考えで動く。お前らだろうがトリニティだろうが、やってることがおかしいと思えば容赦なく潰す」
 その語気の強さに息を飲みながら、スメラギが訊いた。
「今は…味方だと思っていいのね?」
「ああ。お前らと組む気がなきゃ、わざわざこんな話しにこねぇよ」
 思わず苦笑してロックオンが言う。
「最終的に好き嫌いでどっちにつくか決めるってお前…。とんだセカンドチームだぜ」
 声を出して笑いながらシヴァが返した。
「だろ? ま、人間最後は自分の感情に正直に生きねぇとな。それに」
「ん?」
「お前らが色々抱えて、自分の意志でここにいるのと同様。…俺にもあんのさ。俺がマイスターである意味って奴がな」
「お前…」
 ロックオンが複雑な眼で彼を見つめていた。
 ティエリアが静かに目を伏せる。
 そう。ライトニングの資料によれば…彼は。
 真剣な顔のままで彼は続けた。
「つか、みんなそうだろ? ここにいる奴らはどいつもこいつも、辛い目に遭ってきた連中ばっかだってことは知ってる。けどな。だから世界を滅ぼそうってんじゃねぇンだ。本気で世界を変えたいなら、トリニティの奴らのようなやり方はしねぇ。それに、痛い目に遭った連中だからこそ世界を変えられるんじゃねぇか? 同じ痛みを他人に経験させたくないって思えりゃ…な。俺らが命張んのはヴェーダの為でもイオリアの爺さんの為でもねぇ。みんな自分の意志で世界の為に戦ってんだ。…だから俺は俺の意思で戦う」
 ゆっくりと部屋を出ながら、振り向き様に男は言った。
「よって、俺の敵が誰かは俺が決める」
 それだけ言い残して部屋から出て行った男に、ロックオンが静かに苦笑した。
「…血は争えねぇな…ホント」
 ティエリアが思わずロックオンに何か言いかけて、やめてしまった。
 スメラギが静かにアレルヤに視線を送る。
 その意味を理解したアレルヤが慌てて立ち上がって部屋の外へ出て行った男を追いかけた。
「え?」
 部屋を出た廊下でばったり会ってしまって、面食らう。てっきり、どこかへ行ったのかと思っていたのだが。
「よぉ。お仲間さん。相方はもう寝たのか?」
 軽い笑顔で話しかけられて戸惑う。
「え、ええ。まぁ…」
 懐から取り出した煙草に火をつけながらシヴァは言った。
「もーここが禁煙だろうが吸うぞー。吸わせろーーー」
「は、はい」
 思わず答えてしまいながら、この男が部屋を出た目的が単なるニコチン切れだったことを知り、アレルヤの中での緊張が一瞬にして消え失せた。
「身体に…よくないですよ」
 苦笑して言うアレルヤに、シヴァが笑いながら答える。
「俺らは頑丈にできてっから大丈夫だろ」
 吸引機能付きの携帯灰皿で灰と煙を回収しながら吸っているものの、煙草の匂いがたちまち廊下に広がって、アレルヤが困ったような顔で笑いながら言った。
「僕らの身体は頑丈にできていても、そうじゃない人たちに受動喫煙させちゃいますよ」
 楽しそうに笑いながら、男は言った。
「お互い得したな。こんな身体で」
 その笑顔に思わずつられて笑い飛ばしながら、アレルヤは言った。
「…確かに」
 流石だ…。ライトの兄だけのことはある。静かにアレルヤが訊いた。
「訊いてもいいですか? えっと…」
「シヴァでいい。なんだ?」
「シヴァ…。ライトの脳量子波にずっと干渉していたのは…あなただったんですか?」
 すぅ…と、細く煙を吐いて軽い口調で彼は答えた。
「それなぁ…。すげぇ間抜けな話なんだが、俺も自分の頭に干渉してる奴が誰なのか気づくのにしばらくかかっちまってな。あとから考えりゃ、俺にあそこまで干渉できる奴なんか一人しかいねぇってのに。エルには悪いことしたな…。気づいてからはすぐ遮断してやったから、向こうもそれ以降、頭痛は治まったと思うんだが」
「あなたが気づいたのは、もしかして無差別の同時多発テロが起きたあの夜…ですか?」
 そう。あの一件で倒れて以来、ライトニングの頭痛がぱったりと起きなくなっていた。
「…ああ。ちょっと俺もあの一件を聞いた時には頭に血がのぼっちまってな。あの時に…」
 そこまで話した瞬間だった。
 部屋のドアが開いて、中から出てきた三人が一瞬にして顔をしかめた。
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