dream

□第十六話-シヴァ・シンクレア-
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 エクシアとブリューナクがプトレマイオスを離れてわずか半日。
 突然、プトレマイオスに通信が入った。
「所属不明機より、暗号通信です!」
 クリスのやや緊張した声に、スメラギが驚いた声で返す。
「暗号通信って…。どういうことなの?」
 フェルトが答えた。
「こちらが使用している暗号通信と同様のパターンが使用されています」
「な…ッ。どこの機体だ?!」
 ラッセの質問に答えられる人間はいなかった。
 スメラギが落ち着いた声で訊く。
「クリス。それで? 通信の内容は?」
「それが…。プトレマイオスへの着艦と司令官への面会を求めています。自分自身の事は…CBのガンダムマイスターである…と」
 ついにきた…。スメラギが静かに目を閉じた。
 砂漠に現れたトリニティではない四機目のガンダム。やはり…ライトニングがプトレマイオスから離れるのを待っていたのか…。
 ライトニングのくれたデータには一通り目を通してある。彼女の兄だ。トリニティのようなことにはならないだろう。しかし、トリニティの何倍も厄介な相手である可能性も高い。
 そして…面会を求めている目的も不明だ。
「フェルト。機体をスキャンして。そして、問題がなければ、着艦を許可すると伝えて」
「了解」
「前回と同様に、イアンに機体の調査を指示。マイスターを全員招集して」





「ライトの…お兄さん」
 不安そうな顔でアレルヤがつぶやいた。
 ロックオンが苦い顔で笑う。
「まぁ、その時点で一筋縄でどうにかなるタイプじゃなさそうだな」
 ティエリアは何も言わず、一人で何か考え込んでいるようだった。
 スメラギと四人で、一人で入ってきた人間を迎える。
 パイロットスーツ越しにもわかる体格の良さと、アレルヤに匹敵する長身。
 しかし、ヘルメットの遮光スクリーンがオンになったままだった。
「いらっしゃい」
 友達を家に迎えるような声で、スメラギが言った。
「悪かったな。来ンのが遅くなって」
 低いが、くだけた声が聞こえる。苦笑しながらスメラギが肩をすくめた。
「ずっとタイミングを待ってたくせに、良く言うわ。あなたの妹が気を遣って出て行ったのよ?」
 くす…と小さく笑いながら、男がゆっくりとヘルメットを外す。
 全員が息を飲んだ。
「…やっぱバレてたか」
 その男の満面の笑顔が、あまりにも知った顔によく似ていて。双子とは聞いていたが…。確かに綺麗な顔立ちと髪はライトニングに良く似ている。とはいえ男だ。体格も身長も男性そのものなのに…雰囲気が、あまりにも似すぎていた。
 軽い笑顔のまま男は続けた。
「ま、下にいる三バカの牽制が必要なのも確かだろ?」
 そして頭の回転と洞察力と、この話の速さ。
 これは…油断すると飲まれる。
 必死に平常心を保ちながらスメラギが言った。
「え、ええ。もちろん彼女にはその為に行ってもらったんだけど」
「自己紹介が遅れたな。俺はトリシューラのガンダムマイスター。コードネームはシヴァ・シンクレアだ」
 ライトニングが得意としていたあの綺麗な笑みで、破壊神を名乗った男は笑った。

「よろしく頼むぜ」





「お兄さんとは聞いてたけど、双子…だったんだね。正直、驚いたよ」
 ブリーフィングルームで苦笑するアレルヤに、何かに怒っているような顔のままのティエリアが硬い声で言い放った。
「あの男はライトとは違う」
「それはそうだけど…」
 少し離れたところに立っていたロックオンが、静かに口を開いた。
「本当にミス・スメラギと二人きりにして大丈夫だったのか?」
 ティエリアが答えた。
「マイスターである我々には知る必要のない情報もある」
「隣の部屋だから、何かあればすぐにわかるし大丈夫だとは思うけど…」
 アレルヤが言い終わると同時に隣の部屋のドアが開いて、スメラギとシヴァが何か言いあいながら入ってきた。
「んで、こっちの部屋は?」
「こっちも禁煙よ。あなた、宇宙生活で煙草を吸うリスクがどれだけ高いかわかってるでしょ?」
 苦笑しながら言うスメラギに、笑顔の男が答える。
「硬いこと言うなって。一本だけ!」
「ダメよ」
 その緊張感のないやり取りに思わずため息が漏れる。苦い顔でアレルヤが言った。
「…話は、終わったんですか?」
 スメラギではなく、シヴァが答えた。
「おう。今度はお前らとちょっと話がしたいんだが…その前に」
 ゆっくりとアレルヤの前に立ってシヴァが重々しく言った。
「お前さ…」
「え? 僕ですか?」
 うんうん。何度も頷きながら苦い顔で笑って男は言った。
「相方黙らせてくれねぇか? …そのうるせー声が脳量子波に響くんだよ」
「えええッ?! あ、あのッ、もしかして最初からずっと聞こえてましたか…?」
 シヴァが全力で頷くと、顔を真っ赤にしたアレルヤが慌てて部屋の隅で一人でボソボソ話し始めた。
「…ハレルヤ! いや、そうじゃなくて……ダメだってッ!! ………いや、だから今だけ静かに………そんなこと言ったって…ッ」
 その様子を見守りながら、シヴァが遠い眼で呟いた。
「あいつ、アレルヤっていったっけ? 毎日頭ん中あんな感じなのか…? なんか…すげぇ大変だな」
 同じように、部屋の隅のアレルヤに憐みの視線を送りながらロックオンがシヴァの肩に片手を置いて呟いた。
「あんま見ないでやってくれ」
「お、おう。つっても俺にはあいつらの会話が全部聞こえてんだけどな」
 ティエリアが静かに言った。
「君は、超人機関の出身だそうだな」
 ティエリアの顔を一瞥して口元だけで軽く笑った後、男は言った。
「ああ…エルから聞いたか。あいつ、あの状況で良く覚えてたな」
 聞きなれない名前が出たが、会話の流れですぐにそれがライトニングの本名なのだろうと察しがついた。スメラギが目を伏せて言った。
「…覚えていたわけじゃないわ。ライトはライトなりに…あなたのことを調べようとして必死だったのよ」
 苦笑してシヴァが呟く。
「耳が痛ぇな」
 苛立った表情を隠すように、ティエリアがそっと顔をそむけた。
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