dream

□第十三話-邂逅-
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 砂漠でのミッションの後で眠れなかったのは、あの時のフラッグの所為。
 決してグラハムが悪いわけではないのだけれど。
 上から押さえつけられて地面に転がった時、何故か妙に昔を思い出してしまった。
 何人もの手に押さえつけられるあの感触が、生々しくて。
 身体は酷く疲れているはずなのに、フラッシュバックが酷くて何度もうなされて目が覚めた。





 ライトニングが不意に目を覚ますと、男の腕の中だった。
 ロックオンの部屋で狭いベッドに二人で入って、あれから数時間。
 どうやら熟睡していたらしい。
 不思議な気分だった。
 まさか自分が男の腕の中で熟睡できる人間だとは思わなかった。
 相手がロックオンだから…というのもあるのだろうが。それ以上に、自分自身の変化に驚く。フラッシュバックや悪夢はたまに見るものの、一時期に比べれば自分の気持ちも落ち着いてきたんだろうか?
 子供みたいな顔で眠っている男を見て、少し笑いがこぼれる。
 正直まだ、男という性に対して不信感や恐怖感が完全に払拭できているわけではなかったが。
 この顔を見ていると、何故か心が落ち着く。
 ロックオンの胸に顔を埋めて、再び目を閉じる。
 安心してぐっすり眠れることが、妙に嬉しかった。





 翌日、ランデブーポイント。
 トリニティと名乗っていた連中が所有する船が視認できる距離にあった。
 トリニティからの着艦許可をスメラギが認めると同時にエクシアとブリューナクの待機指示が解除され、ブリーフィングルームに上がるよう指示が出た。
「ライトニング?」
「刹那、ちょっと先に行ってて。用事があるから」
 刹那にウインクして格納庫へ向かう。
 ちょうどイアンが入ってくるところだった。
「お、ちょうどいいところにきたな」
「イアンもってことは…スーちゃんの差し金ね?」
 あくどい笑顔でニヤリと笑うと、同じような顔でイアンが笑い返してきた。
「わしだってこの機体が気になるからなぁ?」
 ガンダムスローネ。トリニティが所有する、自分たちの知らないガンダム。
「これがスローネ…。見た目はほぼ私たちの機体と同じ造り…か。GN粒子の色が違うようだったけど」
「ああ。GNドライブの構造が気になるな。あとは…太陽炉か」
 話しながら、二人で機体をざっと調べる。
「イアン、乗ってきたのは三人?」
「ああ。お前さんたちの予想通り、三人だった。上で話しとるんじゃないか?」
「こっちも気になるけどね…」
「かまわんよ。行って来い。命令も出とるんだろ?」
 いたずらっ子のような顔でライトニングが笑う。
「…あと頼むよ」
「まかしとけぃ」
 機体の調査をイアンに任せてブリーフィングルームに向かう。廊下に言い争う声が漏れていた。
「遅れました…」
 言いながらライトニングがドアを開けた瞬間、出て行こうとしていたらしいティエリアと鉢合わせる。
「あららん? まずいところに来ちゃった感じ?」
 なんとなく場が凍りついているような気がして、笑顔で言ってみるライトニング。
「お、いい女じゃねぇか」
 嬉しそうに言ったミハエルに、ドアの所でティエリアと向かい合ったままのライトニングが笑顔で返した。
「もしかして…そこのやんちゃ君がうちのティエリアを怒らせちゃったとか?」
「誰がやんちゃ君だッ!! スローネツヴァイのガンダムマイスターッ、ミハエル・トリニティだッ!!」
 ふぅ…とため息をついて、突然笑顔からものすごく深刻な顔に豹変してライトニングは言った。
「あのね、ミーちゃん。これはとても大事な話なんだけど…」
「てめッ!! 人の名前を猫みたいに略すなッ!!」
 無視して深刻な面持ちのままライトニングは続けた。
「さっき廊下で、あなたたちが持ってきたハロが、急なミッションが来たって…」
「な…ッ、ラグナの野郎こんなときに…ッ」
「ミハエルッ!!!」
 ヨハンが慌てて怒鳴るが手遅れだった。
 再び笑顔に戻ったライトニングがニコニコしながら告げる。
「…言ってたような言ってなかったような」
 はぁ…と、ため息をつくヨハン。
 ネーナが怒鳴る。
「ちょっと、なんなのアンタッ。いきなり入ってきて人を馬鹿にしてんのッ?!」
「どうでもいいけど、あなたたちホントに兄妹? なんか、全然似てないわね」
「余計なお世話よッ! 私たちはマイスターになるために作られたデザインベビーで…」
 遮るようにヨハンが慌てて叫んだ。
「ネーナッ!!!」
 楽しそうに声を出してライトニングが笑った。
「ダメじゃないの。そういうこと正直に答えちゃ。お兄さん、困ってるわよん?」
 ロックオンとスメラギが静かに笑っている声が漏れ聞こえていた。アレルヤが苦い顔で笑っている。ティエリアでさえ苦々しく俯いた顔が若干笑っていた。
 スメラギがなんとか笑いを収めてあまり挑発しすぎないようにライトニングを止めようとした時だった。
 ミハエルが静かに怒声の塊を吐き出した。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、サクリファイス・エスケープの屑女がッ!!!」
「……な…ッ」
 ライトニングの顔色が一瞬にして凍ったのは、誰の目にも明らかだった。
「オラ…さっきまでの威勢はどうした? 返す言葉もねぇか? アァン?」
 ライトニングの顔が怒りで引きつる。乾いた声が漏れた。
「私の……ッ、…データ…ッ」
 ヨハンが疲れのこもった声でもう一度叫んだ。
「ミハエル、よせッ」
 しかし、怒りで我を忘れたミハエルはそんなものでは止まらず。
「よくシレッと生きてられるよなぁ? テメェは所詮…」
 スパン…ッと、乾いた音が部屋に響いた。
「てめ…何しやがるッ!」
「ライトッ!!」
 ミハエルの左頬を力いっぱい平手打ちしたライトニングにスメラギが怒鳴る。
 まさに一瞬の出来事に、全員が息を飲んで見つめる中、素早く踵を返してライトニングはそのまま部屋から出て行ってしまった。振り返り際、目に溜めた涙が微重力で球となって無数に散った。
「ライトッ! 待ちなさいッ!!」
 スメラギの声に答えるかのように、今までライトニングが立っていた所為で開いていたドアが閉まって沈黙する。まだドアの前にいたティエリアが、振り返ってミハエルを睨みつけ、静かな声で怒鳴った。
「貴様…何をした…ッ?!」
「やったのはてめぇンとこのクソ女だろうがッ!!」
 その単語を聞いた瞬間、ティエリアは自分の脳に血がのぼる音を自分で聞いた。
「貴様ッ!!!」
「アァ? やンのか? コラ」
「ティエリアッ!!」
 スメラギが怒鳴ると同時にヨハンが怒鳴った。
「ミハエルッ!! いい加減にしろッ! …すみません。さきほどの女性には申し訳ないことをした…」
 警戒しきった顔でスメラギが言った。
「手を挙げてしまったのはライトの方だから、あまり強くも言えないけど…。彼女に何を言ったの? さっきのサクリファイスって…」
 言い終える前に、ヨハンの静かな声が響いた。
「我々の口からはこれ以上は。気になるなら、ご自分で調べてみてはいかがですか?」
 それは、とても静かで丁寧な物言いだった。
 しかし長兄のその顔は、ごくわずかだが…笑っていた。





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かなり重いお話なので、閲覧注意です。


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