dream

□第十三話-邂逅-
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 砂漠でのミッションからの帰還後、話は新たに現れた四機のガンダムのことでもちきりだった。
「少なくとも、新たに現れたガンダムらしきMSは四機存在している」
 刹那の証言で判明している、エクシアを助けたという、女の子が乗っていた機体。
 アレルヤの証言で判明している、キュリオスを助けたという、青年が乗っていた機体。
 ティエリアとロックオンからの証言で判明している、ヴァーチェとデュナメスを助けたという、青年が乗っていた機体。
 そして。
 全員の視線がゆっくりとブリッジの隅にいたライトニングに集まる。
 スメラギが、代表するようにライトニングに訊いた。
「ライト、あなたを助けた機体は…何も言ってこなかったの?」
 珍しく無表情で、ライトニングが重い口を開いた。
「…みんなが言ってる他の三人みたいに…直接通信はしてこなかった…。ただ、GN粒子を確認したから、ガンダムだとは思う」
 ティエリアがきっぱりと言った。
「通信があったかなかったかを訊いているわけではない。本当に何も言わなかったのか?」
「………」
 指が、極々わずかに震えているのがわかる。
 落ち着け。自分にそう言い聞かせて、あの時オープン回線で聞いたセリフを全て皆に話した。
 …声に聞き覚えがあったことは言わずに。
 ティエリアが小さく呟いた。
「『そいつに触るな』…か。つまり相手は君のことを知っているのか」
「…わからない」
「ライトニング・ランサーッ!」
 ティエリアが怒鳴る。
 ブリッジが沈黙に包まれていた。
 ライトニングが俯いたまま口を開く。
「本当にわからないの。…ごめんなさい」
 水を打ったように静まり返ってしまったブリッジで、ロックオンが空気を入れ替えるようにいつもの口調で言った。
「で? 去り際に宙域ポイントを転送してきた三機と、その最後の一機がお仲間である可能性は?」
 ライトニングがきっぱり言った。
「低いと思う。他の三機とは明らかに行動が違うし、別の方角へ撤収して行ったようだから」
「ま、いずれにしてもそいつらに話を聞けばなんかわかるか…」
「そうだといいけど…ね」
 はたしてどこまで聞き出せるか。それ以前に、彼らがどこまで知っているのかさえ怪しい。
 嫌な状況だった。




 ランデブー時刻まで、24時間の休息時間が与えられた。
 最悪の場合、全面戦闘になることも予想されるため、この休息時間は出撃前の休息時間と言ってもいい。
 出撃前の休息時間はクルーにとって、特にパイロットにとって常に思い残すことのないように過ごさなければならない大切な時間だ。
 そのタイミングで部屋のドアがノックされたことに少し驚きながらもロックオンがドアを開けると、パイロットスーツのままのライトニングが立っていた。
「…ごめん。こんな時になんだけど…」
 同じくパイロットスーツのままのロックオンが軽く笑った。
「入れよ。…話し相手が必要なんだろ?」
 少しホッとした表情で、彼女は頷いた。





「今から思えば、どうして気づかなかったんだろうって思う」
 ロックオンは黙ってライトニングの話を聞いていた。
 重い表情のまま、ライトニングが続ける。
「兄さんがCBにいる可能性。あの兄さんが私に何の連絡もしてこなかった理由もそれなら納得がいく。米軍にいる妹にCBに入ってる兄が連絡なんてするわけないもの…ね」
「けど、今はライトもCBだろ?」
 ライトニングが頷いてから続けた。
「多分、向こうも最近まで気づいてなかったんじゃないかな。私がCBにいるってこと」
「そうか…。CBのメンバーには秘匿義務がある。知らない間に組織内に身内が入っても、直接会わない限りは気づかない…か」
 ロックオン自身の身に置き換えてみても、これはなかなかに恐怖感のある話だった。
 CBに賛同する動機は自分と全く同じ量だけ弟も所有している可能性があるのだから。まして…なんだかんだと些細な見解の相違はあっても結局は似た者同士だ。
 同じことを考えていたかのように、ライトニングが呟いた。
「組織に入る動機も…兄さんなら充分に持ってるからね」
「だろうな…」
「ロックオン」
 コードネームで呼ばれて、男はいつものように軽く返事した。
「ん?」
「さっきはありがとう。…黙っててくれて」
 ロックオンなら、さっきブリッジで話していた時点で気づいていたはずだ。
 それでもみんなに言わずにいてくれたことへの感謝だったが、ロックオンは軽い苦笑で答えた。
「ああ。気にすんなよ。言っちまったら俺も秘匿義務違反がバレるからな。つーか、ホントに大丈夫か? お前。んな顔色じゃ何かあったって言ってるようなもんだぜ?」
 あの任務の後いつもの島まで戻って、五人揃って疲れ果てて泥のように眠って体調を戻してから宙に戻ったが、ライトニングの顔色だけはずっと白いままだった。ライトニングが軽く笑った。
「面目ない。…と言いたいところだけど、本当に平気。ちょっと眠れなかっただけ」
「………エルミナ。隠すなよ」
 眉に皺を寄せて吐かれた言葉に、ライトニングが叫ぶ。
「だぁってしょうがないでしょ〜? 私だって混乱してるのよ。兄さんが目の前に現れたってだけでもビックリドッキリメカ並みなのに、よりによってガンダムに乗ってんのよ? …いや、まぁ向こうも全くおんなじこと考えてんでしょうけど…ッ!」
 両手で頭を抱えてあくまで明るく言い放つライトニングに、軽く苦笑してからロックオンは言った。
「わかった。とにかく…」
 しかし、遮るようにライトニングが言い放つ。
「わかってないッ!」
「はぁ?」
「怒られる…」
「…?」
「ぜっっったい怒られるッ。ガンダムマイスターなんてやってたら絶対怒られるッ!!」
 確かに身内がそんなことをしていたら誰だって怒るだろう。しかし。
「いやお前、そりゃお互い様だろ」
「ところが悲しいかな、向こうは兄でこっちは妹なわけ。この力関係は死ぬまで変わらないのよね。まったく…普通の兄妹ならともかく、私たちなんて生まれたの数十秒しか変わらないってのに…ッ。だからニールにはわからないって言ってんの…ッ」
「よぉくわかった…。まぁ…確かに仮にライルがマイスターやってても俺は怒るだろうな。確実に…」
 ただし、ライルも相当怒るだろうけど。
 と、苦く笑いながら胸中付け加える。
「…ふぅ。よし、叫んだら元気でたッ。部屋に戻って休むわ。…話聞いてくれてありがとう」
 その強気な笑顔が…本当に必死で。
 ロックオンは静かに苦笑した。
「ここで休んでいけよ」
 笑顔でライトニングが返す。
「お兄さんの添い寝がなくても眠れます」
 しかし、ドアに手をかけようとしたライトニングの背後から腕を伸ばして抱きしめながら、男は言った。
「大丈夫だ。俺はお前の兄さんじゃない」
 その腕を振りほどいて出ていくことは…できなかった。硬い声でライトニングが抱かれたまま言った。
「…悪いけど、今日は本当に寝るわよ?」
「お前…流石にこんな顔色してる奴にんなこと考えてねぇよ」
 思わず笑顔を引きつらせて返すと、腕の中で少し暗い声がした。
「そりゃそっか…。ごめんなさいね。ニールが私のこと…大事にしてくれてるのは充分わかってたのに」
「エルミナ?」
 そっと向きなおると、儚げに笑って女は言った。
「甘えさせてもらうわ。…一緒に、寝てもらっていい?」
 気持ちが通じたような、そんな気がして。
 目の前の彼女を抱きしめて、男は満足そうに笑った。
「素直でよろしい」
「たまには…ね」
 軽口を返してくるライトニングの髪に指を入れて、顔を抱き寄せるように力を込めた。
 彼女も少しぎこちない仕草で、静かにロックオンを抱きしめ返してくれた。
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