dream

□第十三話-邂逅-
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 砂漠で戦闘が開始して、既に十五時間が経過していた。

「ちょっと仮眠とってきていいかしら…? 睡眠不足は…お肌の大敵なのよね」
 誰にも聞こえていないライトニングの苦しそうな軽口がコックピットに虚しく響く。
 ヴァーチェのGNフィールドの中にいなければ、装甲の薄いブリューナクでは機体がダメージを負いかねないほどの弾幕が降り注いでいた。
 一体この攻撃はいつまで続くのか。
「……? 攻撃が…止んだ?」
 これは…まずい。奴が来る。
 ライトニングの耳にティエリアの声が通信機越しに聞こえてくる。
『離脱する…ッ』
「ちょっと待っ…」
 しかし、言う暇はなかった。
 弾丸のように現れたフラッグがこちらに突っ込んでくる。
『待ちかねたぞ…ッ、君とまた出会える時をッ!!』
 この声…。
「グラハム…ッ」
 なんとかフラッグの一撃を受け止め、苦しそうに言うライトニングの声に、嬉しそうな声が返ってくる。
『そうだ…。私はずっと君との戦いを求めていた。あの時の模擬戦の決着をつけさせてもらうぞ、エルミナッ!!!!』
「そうこないとね…と、言いたいところだけど、今はそれどころじゃないのよね…ッ」
 近距離戦での応酬が続く。必死にグラハムの動きに対応するライトニングだが、いかんせん、疲労困憊が限界まで到達している。
 やがて、フラッグの一撃がブリューナクに届いた。
「…ッ!!!!」
 機体に衝撃が走る。
『君らしくもないな。この程度の攻撃がかわせないとは』
「言ってくれるじゃない? こっちは…眠くて仕方ないのよッ!!」
 言い放って距離を取り、素早くランチャーをBモードに回して撃つ。
『流石だ…さらに腕を上げたな、エルミナッ! だがッ!!』
「く……ッ!!?」
『その反応速度では当たらんよッ!!!』
 ライトニングの放った弾を寸前でかわし、一気に間合いを詰めて男は言った。
『眠りたければ眠るといい。私の胸でな』
 力いっぱい地面に押し倒されてコックピット内にライトニングの悲鳴が迸る。
「…ぁ…きゃあぁぁぁぁぁあッ!!」
 身体を強打して呻くライトニングの機体を抑えたまま、グラハムが楽しそうに言った。
『装甲より回避性能の向上を優先した結果か…。肌が柔らかいな、ガンダム。まるで…君のようだ』
「……く…ぅ…ッ」
 こうなるとブリューナクではどうすることもできなかった。
 何故だろう。
 押し倒されて、押さえつけられて。
 こうやって壊されていった。
 かつての自分の身体が。
 少しずつ…嬲るように。
 壊されていった。
 どうすることもできないまま。
 ただ悲鳴だけを上げて。
「……い…やだ…」
 もうあんな目にはあいたくない。
「…ッ、ぁぁあああああああッ!」
 出力を全て回して必死に押さえつけられている部位をはねのけようともがく。
『なかなか焦らしてくれるな。まだこんな力が残っているとは…』
 涼しい顔で尚も押さえつけているフラッグの下で、死にもの狂いでもがく。
「……諦めない…絶対に…ッ」
 苦しそうな声に、嬉しそうな声が答えた。
『それでこそ君だッ!!』
 しかし、次の瞬間。
 完全にブリューナクの動きを止めるべくとどめを刺そうとしたフラッグの腕を、光線が打ち抜いた。
『何……ッ?!』
 素早い判断でその場から離脱したフラッグの頭上に、その機体は浮いていた。
 翡翠に輝く粒子を放ちながら、天上に。
「ガンダム……誰……?」
 朝日の逆光の中。目を細めているライトニングにもGN粒子でおそらくそれがガンダムだろうということはわかったが、誰の機体なのかはわからない。
 空に浮かぶ機体を凝視して動けないライトニングの耳に、信じられない声が聞こえてきた。
『…さわんな……』
 突然現れた機体を警戒していたグラハムが怪訝そうに訊き返す。
「なんだと…?」
 次の瞬間、突然現れた機体が消え、一瞬で次々と周囲のフラッグを落とし、そして叫んだ。
『そいつに触んなっつってんだよッ!!!!』
 怒声と共に放たれる一撃が…疾い。
「…ッ!! 体勢を立て直すッ」
 苦い顔で部下に指示を出して撤退したグラハムを追わずに、その機体は朝日の昇る空に浮いていた。
『大丈夫か?』

 その声には…聞き覚えがあった。

 これは、夢なんだろうか?
 だとすれば、いつの間に眠ったのか。

「……さん…?」

『動けるか?』

 機体は、まだ動いた。
 ゆっくりと立ち上がったブリューナクを空から見て、コックピットの中で、男は口元だけで笑った。
 そしてそのまま無言で去っていく。

「ま…待って…ッ!!」

 叫んだライトニングの声は、もう届かなかった。
 その場に残されたライトニングが小さく呟いた。

「兄さん……?」
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