dream

□第十二話-千夜一夜-
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 合同軍事演習。ユニオンとAEUと人革連が手を組んで演習を行うという前代未聞の事件が起きた。
 理由は当然、ガンダムの鹵獲だ。
 軍事演習場所は、テロリストが標的にしている施設であり、万一にもテロ被害に遭えば濃縮ウランによる被害は世界規模に及ぶ。
 当然のことながら、このテロ行為は武力介入の対象であった。
「了解ッ。いったんそっちに戻るよ」
 努めて明るく言い放ってから、通信を切る。
 どうやら休暇は終わりのようだった。
 旅客機の中で、一人窓の外を見ながらライトニングはそっと息をついた。
 この合同軍事演習…もとい壮大なガンダム鹵獲作戦。間違いなくユニオン部隊の隊長はグラハムだろう。
 やっと正面を切って戦えると思ってみれば…。よもや物量作戦とは。
「卑怯だぞ。ったく…」
 こっそり呟いてみる。
 まぁ、どうせグラハムのことだから卑怯だろうがなんだろうが軍の決定には従うのだろうが。
 この物量作戦…。厳しい戦いになる。
 敵の物量が尽きるのが先か、自分たちの体力が尽きるのが先か。
 アレルヤのような例外はともかく、普通の人間が乗っている限り、人間の体力には限界がある。
 まともに戦えるのはせいぜい二時間が限界。
 そこから先はどんどん疲弊が進み、十数時間もすればまともに動く事すらできなくなる。
 となれば彼らも当然、中の人間が動けなくなるまで攻撃を続けていられるだけの物量を用意してきているだろう。
 さて、どうやってかわすか…。
 かわして離脱できればこちらの勝ち。
 離脱できなければ…その時は。






「ライト姉さん、これは何?」
 お土産をもらって嬉しそうに訊いてくるフェルトに説明するライトニング。
「エッフェルせんべいと凱旋最中」
 思わずスメラギが大きな声で突っ込みをいれた。
「あなたは一体どこの国に行ってきたのよッ!!!?」
「んふふ。内緒よん」
 ライトニングからのお土産を開けて盛り上がっているトレミークルーたちをよそに、スメラギと二人でそっと地下に移動する。
 地下にいたティエリアにライトニングが真顔で言い放った。
「ティエリア。はっきり言うけど、今回の作戦をやるなら本気で万一の時にガンダムがオートで自爆するくらいの仕組みにしておかないと危険だよ」
 ライトニングがこういう口調になるときがどういう時なのかを知っているスメラギが何も言わずに目を伏せた。ティエリアが淡々と言い放つ。
「そのシステムに反対したのは他ならぬあなただ。ライトニング・ランサー」
「当たり前だ。捕虜になるくらいなら死ねと命令する軍隊なんて、今どき流行らないからね。それに…」
「それに?」
「万一の時ってのを設定するのが難しい。パイロットの生体反応が消えたとき…という設定では中のパイロットの死後、機体がこちらで回収可能な状況であっても太陽炉ごと爆破してしまうことになるし、中のパイロットが生きている状態なら鹵獲が可能になってしまう。そもそも自爆ってのがナンセンスだし…ね」
「どういう意味だ?」
「そのまんま。戦場ではね、生き残ることを諦めたらそこで終了なんだよ。どんな状況からだって中の人間が諦めなければ可能性は生まれてくる。たとえ鹵獲されても、この前のキュリオスのように脱出できる可能性だって残ってる。でも鹵獲されたことを条件に自爆してしまうような機体では、その可能性も全て殺してしまうことになる」
「可能性…か」
 その言葉を口にしたティエリアの顔を少し意外そうに見た後、スメラギが強い口調で言った。
「ライトの言う通りよ。どんなことがあっても、可能性を諦めちゃダメ」
 しかし、ライトニングはスメラギに向きなおると珍しく苦い口調で言った。
「でもねスーちゃん。ティエリアも。言わせてもらうけど、私はこのミッションには反対だ。戦術予報士ならわかってると思うけど、戦略レベルでの不利を戦術レベルで覆すことは絶対にできないし、最初からそれを前提に考えるべきではない。今回のミッションは戦略レベルでまず負けている。私たちの目的を考えるなら、受けちゃいけない、捨てなきゃならない勝負なんだよ。それを受ける以上、最悪の場合のことは、考えておいてね。スーちゃん」
「最悪の場合…」
 それは、戦術予報士の仕事だった。しかし。
「私は組織の実行者にすぎないし、ガンダムマイスターとして命令には従う。けれど、私にできる仕事はパイロット以外にも結構あるのよん?」
「ライト…」
「使えるものはなんでも使えばいいのよ。猫の手でも私の頭でも…ね?」
 反対だと断言しつつ戦術プランの組み立てを手伝ってくれるらしいライトニングを見つめて、スメラギは静かに息をついた。
「ありがとう。…そうね。考えておくわ。最悪の場合…」
 ティエリアが硬い声で言った。
「ミッション自体には反対だが命令には従う…か。マイスターとして当然ではある…が」
「何ぶつぶつ言ってんの、ティエリア。要するにいつもと同じでしょ? どんな状況でも、相手が誰でも、戦争根絶のためなら絶対に引かない。それが、ソレスタルビーイングだッ、てね?」
 笑顔と明るい物言いに、ティエリアが驚いてライトニングを見つめた後、珍しくほんの少し笑ってから言った。
「ライトニング…あなたと話していると、こちらがおかしくなりそうだ」
「な…、どういう意味よッ!? あ、ちょっとティエリアッ?!」
 そのままどこかに行ってしまったティエリアにくすくす笑いながらスメラギが言った。
「これもあなたが持つ可能性なのかしらね、ライト」
「え…と、スーちゃん?」
 不思議そうに訊くライトニングに、何も答えないまま。しばらく地下に楽しそうな笑い声が木霊していた。





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