dream

□第十一話-再起-
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 ようやくアザディスタンでのミッションが終わってロックオンが宙に戻ってきた。
 本来戻る予定はなかったのだが、彼が戻りたいと伝えてきたとき、止めるクルーは一人もいなかった。
 むしろ、全員がホッとしたと言った方が正しい。





 また面会だというから、誰かと思えば。
 部屋に入ってきた男を見て、テーブルの椅子に座ったライトニングが観念した顔で苦笑する。
「ロックオン…………」
 これは…怒られる。確実に。
 いや、いつかはこうなるとわかっていたのだが。
「お前…何やってんだ…」
 とりあえず対面に座ってから、呆れ果てた口調でロックオンがなんとかそれだけ口にする。
 思っていた以上に、彼女の怪我はずっと酷かった。
 ここへ来る前、廊下でわざわざロックオンを待っていたフェルトが、小さな包みを渡してきた。
 自分が渡しても受け取ってくれないから、なんとかして渡してほしい…と頼むフェルトの顔が本当に辛そうだったのも、この有様を見ればわかる。
 フェルトに渡された包みの中身は…痛み止めの薬だった。
「ごめんなさい…」
 俯いて無表情に謝るライトニングに、用意していた説教文句も言えず、低い声で男は言った。
「その怪我で十日間の営倉入りは辛かったろ…」
 ライトニングが苦笑する。
「ええ…正直、結構堪えたわ」
「せめて痛み止めくらい使え。見てるこっちが痛ぇだろうが」
 呆れを込めて言った言葉だったが、ライトニングは笑顔で、しかし笑っていない眼で言った。
「だって痛みがある方が、生きてるって感じ…するじゃない?」
 思わずその表情とセリフに絶句した後、我に返ってロックオンは声を裏返して叫んだ。
「おま…ッ、どMかッ!!」
 ライトニングの楽しそうな笑い声が響く。
「く…ぅ…ッ」
 思いっきり笑ったせいで傷に触って体を抑えてしまったライトニングに思わずロックオンが心配そうに顔をしかめる。
「痛むか?」
「全然平気。……あの子に比べたら、ね」
「………」
 酷い表情だった。怪我などよりよほど心の方が痛そうで。
「たまらないのよ…。せめて、自分が血を流していないと」
 辛そうな顔に、ロックオンは淡々と言った。
「それで? 首尾の方はどうだった?」
「……」
 黙ってしまったライトニングに苦笑しながら優しく言ってやる。
「おいおい。今更隠すなよ。…お兄さんのこと、調べに行ってたんだろ?」
「…やっぱり、わかるよね…君なら」
 ニールなら。…と、暗にその顔は言っていた。思わず笑ってから、いつもの軽い口調で話す。
「まぁな。そうじゃないかと思ってた。じゃなきゃお前、ミッション放り出してまで出て行ったりしねぇだろ」
「あはは…ホント、ごめんね。私の分まで働かせちゃって…」
「ああ、まったくだ。今度、何かおごれよ?」
「約束する」
「おう。楽しみにしてる」
 いつもと全く変わらないくだけた会話。
 お互い笑顔でやり取りして、しばらくしてからライトニングが小さな声で言った。
「…もし、ね」
「ん…?」
 低い声で、訊いてやる。細い声で、ライトニングは続けた。
「もし…アレルヤの言うように私の身体が改造されているなら、兄さんの身体もきっと………同じだと思って」
 ロックオンは静かに息を飲んだ。
 自分のことだけでも相当こたえただろうに、兄弟の事まで…。ライトニングは続けた。
「もしそうなら…あの日、兄さんがいなくなった理由と…あの施設は関係があるのかもしれないって思ったの。消息の手掛かりがあるなら…て。まぁ、あの施設にまだ兄さんがいる可能性はほとんどないとは思っていたけど。…その可能性だって、決してゼロではなかった。そう思ったら…行かずにはいられなかったのよ…」
 ミッションの攻撃対象に身内が巻き込まれるかもしれない可能性がある。それでもガンダムマイスターとして平然としていられたら、それはもはや人ではないのだろう。
 無表情に、ロックオンが呟いた。
「やっぱ…兄妹なんだな」
「え…?」
 目を丸くするライトニングに、ロックオンは苦く笑った。
「…なんでもねぇよ。それに多分、俺がお前と同じ立場だったら、やっぱ俺もお前と同じことしてただろうし…な。俺にお前を説教する資格はねぇよ」
「ッ! ニール…私は…ッ」
 最後まで言わせずにロックオンはきっぱりと言った。
「エルミナ。これだけは聞いてくれ。お前が営倉で何日苦しんだって何も変わらねぇ。お前がしなきゃいけないことはそうじゃねぇだろ? お前のことを心配してるアレルヤやフェルトに、お前がしてやらなきゃいけないことはなんだ? あいつらを元気にしてやりたいんだろ? なら、早くあいつらの所へ行って笑ってやれよ。しっかり飯食って、痛み止め飲んで、ベッドでぐっすり寝ろ。んで…怪我が治ったら、また笑ってくれよ。いつもみたいに…」
 テーブルの上にフェルトから預かった包みを置いてやる。絶句しているライトニングを残して一人立ち上がり、部屋から出ていく間際に、男は背中で言った。

「俺がお前の兄さんなら、そう言う」

 言い残して部屋から出て、ドアを閉める。しばらくして、中からすすり泣く声が漏れてきた。
 軽く苦笑して、その場を後にする。
 そして、ライトニングの営倉入りはその瞬間をもって解除となった。
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